『ローンが通らなければ白紙解約』と思っていませんか? 住宅ローン特約が使えなかった事例を弁護士が解説
2026.08.10
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
マイホームを購入する際、多くの方が住宅ローンを利用します。
そのため、不動産売買契約には、
「住宅ローンが利用できなかった場合には契約を解除できる」という
いわゆる「ローン特約」が設けられていることが一般的です。

もっとも、
「ローン審査に落ちたのだから、当然に手付金は返ってくる。」
と考えている方は少なくありません。
しかし、ローンが通らなかった理由によっては、
ローン特約による契約解除ができず、
高額な手付金を失ったり、違約金が発生するリスクがあります。
今回は、架空の相談事例をもとに、
住宅ローン特約による解除が認められなかった裁判例をご紹介します。

【相談内容】
会社員のAさんからのご相談です。
Aさんは、新築マンションの購入を決意し、
代金4720万円の売買契約を締結しました。
契約にあたり、Aさんは夫Bを連帯保証人とする条件で、
提携銀行の住宅ローンの事前審査を受け、承認を得ていました。
その後、不動産会社C社から、
「万が一、ローンが利用できなかった場合には、
ローン特約によって契約を解除できます。」
との説明を受け、C社に手付金472万円を支払いました。
ところが、正式なローン申込みの後になって、Bから、
「連帯保証人にはなりたくない。」
と言われてしまいました。

Aさんは銀行に事情を説明しましたが、
銀行は住宅ローンの承認を取り消しました。
そこでAさんは、
「住宅ローンが利用できなくなったのだから、
ローン特約を使って契約を解除し、手付金を返してほしい。」
と考えています。
本当に、手付金は返ってくるのでしょうか。

【弁護士からの回答】
結論からいうと、住宅ローンが利用できなかった原因が買主側にある場合には、
ローン特約を利用できない可能性があります。
住宅ローン特約は、病気や金融機関の方針変更など、
買主に責任のない事情によって融資が受けられなかった場合に、
買主を保護するための制度です。
一方で、買主自身の事情によって融資が実行されなくなった場合には、
ローン特約が適用されないことがあります。

実際に、東京地方裁判所令和3年8月10日判決では、
買主が夫を連帯保証人とする条件で、
住宅ローンの事前審査を通過したにもかかわらず、
契約締結後になって夫が連帯保証を拒否した事案が問題となりました。
この事件では、買主は契約前に、
「融資審査終了後の申込内容の変更などお客様の事由により、
融資実行ができなくなった場合は「融資利用の特例」は適用されません。」
との説明を受けていました。
また、契約時に交付された書面には、
「連帯保証人の方の事情により融資が制限された場合においても」
「融資利用の特例は適用されません。」
と明記されていました。
裁判所は、
買主は、自らが申し込んだ条件どおりに、
連帯保証人の了承を取り付ける義務を負っている旨判断し、
夫が連帯保証を拒否したことは、買主側の責任によるものだと認定しました。
さらに裁判所は、
仮に連帯保証人がやむを得ない事情で保証できなくなったとしても、
買主には、予定していた連帯保証人と同等以上の信用力のある連帯保証人を
付すなど、少なくとも当初の申込み時よりも住宅ローンの承認が
受けにくくなることがないように行動すべき義務があると指摘しています。
その結果、裁判所は、ローン特約の適用を認めず、
買主の手付金返還請求を退けました。

「ローンが通らなかった=解除できる」ではない
住宅ローン特約があるからといって、
どのような場合でも契約を解除できるわけではありません。
例えば、
・契約後に転職や退職をした。
・新たな借入れをした。
・健康状態が変わり、団体信用生命保険に加入できなくなった。
・連帯保証人が保証を拒否した。
といった事情によって融資が実行されなくなった場合には、
ローン特約が使えない可能性があります。
今回の裁判例でも、契約書類には、転職や新規借入れ、
連帯保証人の事情などによって融資が制限された場合には、
ローン特約が適用されないことが明記されていました。
契約書や重要事項説明書を十分に確認しないまま、
「ローンが通らなければ契約をやめればいい。」
と安易に考えて契約してしまうと、思わぬ損失につながることがあります。
他の解除方法を検討?
住宅ローン特約による解除ができない以上は、
手付解除など他の方法を検討する必要があります。
この場合には、手付解除が可能なのかという問題が出てきます。
手付解除も難しいということになれば、
買主側から契約解除できないということにもなりかねません。

【今回のポイント】
・住宅ローン特約は、買主に責任のない理由で、
融資が受けられなかった場合に利用できる制度です。
・連帯保証人の事情によってローンが利用できなくなった場合には、
ローン特約が適用されないことがあります。
・「ローンが通らなかったのだから当然に解除できる」とは限りません。
・契約前には、ローン特約が適用されないケースを必ず確認する必要があります。
不動産会社の営業担当者から、
「ローン特約があるので安心してください。」
と言われることがあります。
しかし、その言葉だけを信じて契約してしまうのは危険です。
ローン特約は、あくまでも買主に責任のない事情で、
融資が受けられなかった場合に認められる制度であり、
契約後の事情変更によって融資が実行されなくなった場合には、
手付金を失ったり、違約金を請求される可能性があります。
マイホームの購入は、多くの方にとって人生で最も大きな買い物の一つです。
契約書や重要事項説明書に不安がある場合には、
契約前に専門家へ相談することをおすすめします。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。
【参考記事】











