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陽なた法律事務所の弁護士が綴る、日常や法に関する豆知識ブログです。

「契約期間が終わったのだから出て行ってください」と言われました… 定期建物賃貸借契約は本当に有効なのか? トラブルになった事例を弁護士が解説

2026.08.03

執筆者 陽なた法律事務所 弁護士  松井竜介

 

こんにちは。弁護士の松井です。

 

店舗や事務所の賃貸借契約では、

「定期建物賃貸借契約」が利用されることが少なくありません。

定期建物賃貸借契約は、通常の賃貸借契約とは異なり、

契約期間が満了すると原則として更新されず、契約が終了します。

そのため、立退料も必要ありません。

 

もっとも、契約期間が満了した後になって、

「そもそも定期建物賃貸借契約は有効に成立していない。」

「説明を受けていないので、普通借家契約として更新されるはずだ。」

といった争いになることもあります。

 

かりに、普通借家と認定されれば、

高額な立退料を支払わなければならなくなるリスクも出てきます。

 

今回は、架空の相談事例をもとに、

定期建物賃貸借契約の有効性が問題となった裁判例をご紹介します。

 

 

【相談内容】

建物の所有者(オーナー)Aさんからのご相談。

 

Aさんは、会社を経営するB社に対し、建物を事務所として貸していました。

当初の契約は、定期建物賃貸借契約でしたが、

契約期間が満了した後、双方は改めて定期建物賃貸借契約を締結しました。

 

もっとも、前の契約が終了したのが3月14日であったのに対し、

新しい契約書に署名押印したのは4月に入ってからでした。

 

その後、契約期間が満了したため、AさんはB社に対して明渡しを求めました。

ところが、B社は、

・「新しい契約は3月15日から始まっているのに、

定期建物賃貸借契約であることの説明を受けたのは4月である。」

・「借地借家法38条では、定期建物賃貸借契約であることを『あらかじめ』

説明しなければならないのだから、この契約は無効ではないか。」

と主張しています。

 

Aさんは建物の明渡しを求めることができるのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

結論からいうと、契約期間の始まりよりも後に説明が行われていたとしても、

直ちに定期建物賃貸借契約が無効になるとは限りません。

 

借地借家法上、

(定期建物賃貸借)
第38
条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。
3 第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

 

このように、借地借家法では、

定期建物賃貸借契約を締結する場合、貸主は、契約が更新されず、

期間満了によって終了することを記載した書面を交付し、

説明しなければならないとされています。

 

実際に、東京地方裁判所令和3年12月23日判決では、

定期建物賃貸借契約の再契約に際し、

新しい契約の始期が契約書の作成日より前になっていたことから、

借主が「説明が遅かったため契約は無効だ」と主張した事案が問題となりました。

 

この事件では、借主は、借地借家法第38条第3項(旧2項、以下同じ)の

『あらかじめ』は、契約期間の始期より前でなければならない」と主張しました。

 

これに対し、裁判所は、借地借家法第38条3項は、

定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立ち、賃貸人において、

定期建物賃貸借は契約の更新がなく、

契約の満了により終了することについて記載した書面を交付し

その旨を説明すべきものとしたと解するのが相当と判断しました。

 

つまり『あらかじめ』とは契約締結前であることを指し、

契約期間の始期より前であることを要求するものではないということになります。

 

また、裁判所は、借主が契約書に署名押印した時点で、

契約が成立したと認定した上で、借主はその前に、

仲介会社から借地借家法38条の説明書面の交付を受けていたとして、

法律上の要件は満たされていると判断しています。

 

さらに、借主は、「十分な説明を受けていない」とも主張しましたが、

裁判所は、借主が

「借地借家法第38条第3項に基づく書面の交付と説明を受けました」

と記載された書面に署名押印していたことなどを重視し、

仲介会社による説明があったと認定しました。

 

その結果、裁判所は、定期建物賃貸借契約は有効に成立しているとして、

貸主による建物の明渡請求を認めています。

 

定期建物賃貸借契約では「説明」が特に重要

定期建物賃貸借契約は、契約期間が満了しても更新されないという点で、

通常の賃貸借契約とは大きく異なります。

 

そのため、貸主には、契約締結前に、

・更新がないこと

・契約期間の満了によって終了すること

を記載した書面を交付し、説明する義務があります。

もっとも、裁判所は、定期建物賃貸借契約の有効性について、

厳格に判断する傾向があり、説明書面の交付方法や説明の時期などが、

争われるケースも少なくありません。

 

特に、今回の裁判例は、再契約であったため、

契約の始期が契約締結日より前になっていたという特殊な事案でしたが、

裁判所は、契約締結前に説明がされていたことを重視しています。

 

【今回のポイント】

・定期建物賃貸借契約では、貸主は借地借家法38条の説明書面を交付し、

説明する必要があります。

・借地借家法38条の「あらかじめ」とは、契約期間の始期より前ではなく、

契約締結前であることを意味すると判断されました。

・契約書への署名押印だけでなく、説明書面の交付や説明の有無についても、

重要な争点になります。

・後日のトラブルを防ぐため、貸主側は説明の日時や方法を証拠として、

きちんと残しておくことが重要です。

 

定期建物賃貸借契約は、

貸主にとって契約期間を明確に区切ることができる便利な制度ですが、

その一方で、法律上の要件を満たしていなければ、

通常の賃貸借契約と判断される可能性があります。

 

特に、再契約や契約条件の変更を伴う場合には、

「いつ、どのような説明をしたのか」が後の裁判で、

大きな意味を持つことがあります。

 

期間満了間際になって、争いが発生し、

最終的に普通借家と認定されてしまうと、

早期の立ち退きを求めるためには、

高額な立退料を支払わなければならなくなることもあり得ます。

 

実際に、説明書面がないために、争いとなり、

最終的に数千万円の立退料を支払った例もありますので、

契約締結時点から注意が必要です。

 

店舗や事務所の賃貸借契約でお困りのオーナーの方、

あるいは定期建物賃貸借契約の有効性について疑問をお持ちの方は、

契約書や説明書面を持参のうえ、早めに弁護士へご相談ください。

 

※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、

実在の人物、団体とは一切関係ありません。

 

当事務所への無料相談受付はこちらまで

 

【参考記事】

定期借家契約にすれば立退料がいらない?

 

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