手付解除はいつまで可能?履行着手の判断基準を弁護士が解説
2026.04.22
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
架空の相談事例をもとに、解決方法や裁判例を紹介したいと思います。
今回は「手付解除」をテーマに、基本判例から最新裁判例まで踏まえつつ、
具体例を交えて解説します。不動産取引において非常に重要な論点です。

【相談内容】
Aさんは、不動産を購入するためBさんと売買契約を締結し、
手付金として100万円を支払いました。
しかし、その後事情が変わり、Aさんは契約を解除したいと考えています。
一方、Bさんは引渡しに向けて準備や手続を進めており、
「すでに履行に着手しているので手付解除はできない」と主張しています。
このような場合、Aさんは手付解除できるのでしょうか。

【弁護士からの回答】
手付解除は、買主であれば手付金の放棄、
売主であれば倍額の支払いによって契約を解除できる制度です。
ただし、この解除が認められるのは「相手方が履行に着手するまで」
に限られます。
よって、Bさんの行ったという準備がどのようなものなのか、
具体的な事情を確認する必要があります。
①手付解除の基本
まず手付については民法上、
【民法第557条第1項】
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、
売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。
ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
と定められています。
手付は、当事者の一方が契約を解除することを留保する趣旨を含みます。
これを解約手付といいます。
一般的に手付というとこの意味で使われてます。
そのため、
・買主は手付放棄で解除
→Aさんが預けた100万円を放棄する。Aさんが100万円の損
・売主は倍返しで解除
→BさんはAさんから100万円預かっているので、
そこに追加で100万円を手出しすると、Bさんは100万円の損
という仕組みになっています。
ただし、解除できるのは、
手付による解除期限がある場合には、その期間内のみです。
また、相手が契約の履行に着手した場合にも解除できなくなります。
②履行着手の判断基準(最高裁の2つの判決から)
この履行の着手について、
最高裁昭和40年11月24日判決は、
『客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし
又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合』
と判断しています。
また、最高裁平成5年3月16日判決は
『解約手付が交付された場合において、
債務者が履行期前に債務の履行のためにした行為が、
民法五五七条一項にいう「履行ノ著手」に当たるか否かについては、
当該行為の態様、債務の内容、履行期が定められた趣旨・目的等諸般の事情を
総合勘案して決すべきである。』
とも判断しており、履行の着手とは、 単なる準備では足りず、
現実の履行行為もしくはこれに準じるような行為が必要になってきます。
③裁判例にみる具体的判断
(1)履行着手が肯定された例(解除不可)
・他人物売買で、売主が前所有者から不動産を購入して所有権移転登記を経た場合は、特定の売買の目的物件の調達行為(最高裁昭和40年11月24日判決)
・売主が売買対象不動産の測量などを行い、隣地との境界を確定し、転居先のリフォーム工事に着手した場合(東京地裁平成21年9月25日判決)
・売主が売買対象不動産に設定された抵当権を抹消するために、履行期の16日前に借入金1900万円を全額返済した場合(東京地裁平成21年11月12日判決)
(2)履行着手が否定された例(解除可)
・代金支払いや不動産の明渡しの履行期が契約日の1年9か月後に設定されていた事案で、買主が土地の測量および代金の口頭の提供をした場合(最高裁平成5年3月16日判決)
・売主が、登記に必要な書類を司法書士に渡したことや固定資産税等の精算書のデータを仲介会社に送信した行為(東京高裁令和3年10月27日判決)
④あなたは手付解除できる?簡易チェック
次の項目にいくつ当てはまるか確認してみてください。
【解除できる可能性があるケース】
□ 履行行為(引渡し・支払)の期限まで時間がある
□ 相手はまだ具体的な引渡し・決済準備に入っていない
□ 書類準備や打合せ程度にとどまっている
□ 実際の履行行為(引渡し・支払)には進んでいない
【解除が難しい可能性があるケース】
□ 引渡し日が具体的に確定し準備が進んでいる
□ 決済に向けた具体的手続が開始されている
□ 実際の履行に直結する行為が行われている
上記はあくまで目安であり、最終判断は個別事情によります。

【今回のポイント】
・手付は解約手付として機能する
・手付解除は履行着手前まで
・履行着手は「現実的な履行行為」で判断
・判断は履行期など個別事情に強く依存する
不動産取引では、この判断を誤ると大きな金銭的負担につながります。
「まだ解除できるのか微妙…」という段階こそ、相談のタイミングです。
そのため、早期ににより詳細なご相談をおすすめいたします。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。
【参考記事】











