店舗と一体で貸している駐車場だけ更新拒絶できる?-賃貸人の更新拒絶が権利濫用とされた事例
2026.09.30
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
「駐車場の契約には借地借家法の適用がなくすぐに解約できる」
と思われている方は多いかもしれません。
確かに、店舗として使用している建物の普通賃貸借契約と、
単なる駐車場として使用している土地の賃貸借契約とでは、
適用される法律が異なる場合があります。

しかし、もし店舗と駐車場を同時に契約している場合、
形式上は別々の契約であっても、その利用実態によっては、
駐車場だけ契約を終了させることが認められない場合があります。
今回は、実際の裁判例を参考にした架空の事例により、
店舗と一体として利用されている駐車場の更新拒絶と、
「権利の濫用」について解説します。

【相談内容】
建物の所有者(オーナー)Aさんからのご相談。
Aさんは、投資用として、カラオケ店として使用されている店舗と、
その店舗に隣接する駐車場を購入しました。
店舗も駐車場も、以前の所有者からB社に賃貸されており、
B社は長年、その場所でカラオケ店を営業しています。

店舗と駐車場については、それぞれ別の賃貸借契約が締結されています。
Aさんとしては、将来的にこの土地を自分で利用したいと考えていたため、
B社に対して契約を更新しない旨を通知しました。
しかし、店舗については、
「普通借家契約なので、貸主側から契約を終了させるためには、
借地借家法上の要件を満たす必要がある。」
と言われました。
そこでAさんは、
「店舗はすぐに明け渡してもらえないとしても、
駐車場は単なる土地の賃貸借です。
駐車場だけなら契約期間が終われば返してもらえるのではないですか。」
と考えています。
確かに、駐車場は店舗とは別契約です。
Aさんは、駐車場だけでもB社に明け渡してもらうことができるのでしょうか。

【弁護士からの回答】
結論から申し上げると、
店舗と駐車場が形式上は別々の賃貸借契約であっても、
両者が事実上一体として利用されている場合には、
駐車場だけを切り離して更新拒絶することが、
いわゆる「権利の濫用」として認められないことがあります。
今回参考となるのが、福岡高等裁判所平成27年8月27日判決です。

この裁判では、カラオケ店として使用されていた店舗と、
その営業に利用されていた駐車場について、
それぞれ別個の賃貸借契約が締結されていました。
そして、その後に店舗と駐車場を取得した新しい所有者が、
借主に対して両方の明渡しを求めましたが、
裁判所はその請求を認めませんでした。
店舗と駐車場は別々の賃貸借契約だった
実際の裁判では、借主は平成21年2月、カラオケ店を営業するため、
・店舗について月額賃料70万円
・駐車場について月額賃料30万円
として、それぞれ5年間の賃貸借契約を締結していました。
その後、元の所有者らは契約を更新しない旨を通知しました。

さらに、平成25年11月、新しい所有者が店舗と駐車場の双方を購入し、
賃貸人の地位を引き継ぎました。
新しい所有者も借主に対して更新拒絶などの通知を行い、最終的には、
「自社ビルを建築するために自分で使用する必要がある。」
などとして、店舗と駐車場の明渡しを求めました。
そもそも適切な時期に更新拒絶がされていない
まず問題となったのが、店舗の賃貸借契約です。
借地借家法第26条第1項では、期間の定めのある建物賃貸借について、
契約を更新しない場合、原則として期間満了の1年前から6か月前までの間に、
更新しない旨の通知をすることが必要とされています。
ところが、この事件では、元の所有者による更新拒絶の通知も、
新しい所有者による更新拒絶の通知も、この期間内にはされていませんでした。
そのため裁判所は、店舗の賃貸借契約は法定更新され、
期間の定めのない賃貸借契約になったと判断しました。
つまり、「契約期間が終わったのだから、当然に退去してもらえる。」
というわけではありません。
普通建物賃貸借では、更新拒絶の時期についても注意する必要があります。

法定更新後も、貸主は自由に契約を終了できない
もっとも、期間の定めのない契約になったからといって、
永遠に契約を終了できないわけではありません。
借地借家法第27条では、
賃貸人から期間の定めのない建物賃貸借の解約申入れをした場合、
原則として6か月を経過することによって終了するとされています。
しかし、貸主からの解約申入れには、
借地借家法第28条の「正当の事由」が必要です。
正当事由については、
・貸主と借主の双方が建物を使用する必要性
・これまでの賃貸借の経過
・建物の利用状況や現況
・貸主が立退料などの財産上の給付を申し出ているか
などを考慮して判断されます。
今回の裁判でも、貸主側は、自社ビルを建築する必要があることなどを主張し、
さらに控訴審では、正当事由を補完するため、
1000万円又は裁判所が相当と考える金額を支払う
との申出までしていました。

しかし、裁判所はこれでも正当事由を認めませんでした。
借主が経営するカラオケ店の規模、営業年数、周辺の状況などからすると、
借主がその場所で営業を続ける利益は大きい一方、
貸主がその不動産を必要とする程度はそれほど大きくないと判断されたためです。
その結果、1000万円程度の金銭提供を考慮しても、
店舗の明渡しを求めるだけの正当事由はないと判断されました。
駐車場だけなら返してもらえるのか
ここからが、この裁判の特に重要なポイントです。
駐車場として貸している土地については、
本件では、店舗の建物賃貸借とは異なり、
借地借家法の適用を受けない土地賃貸借でした。

そこで、
「店舗について借地借家法上の正当事由が必要なのは分かる。
しかし、駐車場には同じ規制がないのだから、
駐車場だけは契約を終了できるのではないか。」
という考え方もありそうです。
しかし、裁判所は、駐車場についても明渡しを認めませんでした。
その理由は、
店舗と駐車場が、カラオケ店を営業するために事実上一体として賃貸されていた
からです。
駐車場がなければ店舗営業そのものが成り立たない
裁判所は、このカラオケ店を営業するためには、
店舗だけではなく、駐車場を利用することが不可欠な状況であった
と認定しました。
そうすると、店舗については、
「借地借家法上の正当事由がないから、契約を終了することはできない。」
としながら、一方で駐車場だけは、
「借地借家法の適用がないから契約を終了して返してもらえる。」
としてしまうと、どうなるでしょうか。
形式的には店舗を使い続けることができても、駐車場を失うことによって、
カラオケ店の営業を続けられなくなる可能性があります。
それでは結果的に、店舗について借主を保護した意味がなくなってしまいます。
裁判所は、このような結果は、建物賃貸借について借主と貸主の利益を調整し、
正当事由を要求している借地借家法の趣旨に明らかに反すると判断しました。
駐車場の更新拒絶は「権利の濫用」と判断された
さらに裁判所は、
・駐車場だけでの利用価値は低いこと
・店舗と駐車場を一体として利用することが社会経済上も望ましいこと
・それが当事者の合理的な意思にも合致すること
・賃料が低額であれば、賃料増額請求などによって対応することも可能であること
などを考慮しました。
そして、
店舗の賃貸借契約が継続しているにもかかわらず、
駐車場だけを更新拒絶することは「権利の濫用」にあたり、
更新拒絶の通知はその限度で無効である
と判断しました。

つまり、「駐車場契約だけを見れば更新拒絶できそうだ」という
形式論だけでは判断されなかったということです。
「別契約だから別々に考えればよい」とは限らない
この判例から分かる重要な点は、
契約書が別々になっているからといって、
法律上も必ず別々に処理できるとは限らない
ということです。
例えば、店舗と駐車場、店舗と倉庫、店舗と資材置場、事務所と専用駐車場、
などについて別々の契約書を作成していても、
実際には両方が一体となって事業に利用されている場合があります。
そのような場合に、一方の契約だけを終了させることによって、
もう一方の契約の目的まで事実上達成できなくなるのであれば、
今回の裁判例のように権利の濫用が問題となる可能性があります。
もっとも、「店舗と駐車場を同じ借主に貸している。」
というだけで、必ず更新拒絶が認められなくなるわけではありません。
今回の判決では、特に、駐車場がカラオケ店の営業に不可欠であったことや、
店舗と駐車場が事実上一体として賃貸されていたことが重視されています。
したがって、
・契約締結の経緯
・それぞれの契約の目的
・店舗と駐車場の位置関係
・実際の利用状況
・駐車場がなければ店舗営業にどの程度支障が生じるのか
など、具体的な事情を確認する必要があります。

【今回のポイント】
店舗と駐車場について別々の賃貸借契約が締結されているからといって、
必ず別々に契約を終了できるとは限りません。
今回の福岡高等裁判所平成27年8月27日判決では、
店舗と駐車場がカラオケ店営業のために事実上一体として利用され、
駐車場の利用が営業に不可欠であったことなどから、
店舗の契約が継続しているにもかかわらず、
駐車場だけ更新拒絶することは権利の濫用にあたると判断されました。
そのため、
「駐車場には借地借家法が適用されず、期間が終われば当然に返してもらえる。」
と単純に考えることはできません。
一方で、今回の裁判例は、店舗に付随するすべての駐車場について、
更新拒絶ができないと判断したものでもありません。
店舗と駐車場がどの程度一体として契約・利用されていたのか、
駐車場が店舗営業にどの程度必要なのかなどによって、結論は変わります。
また、普通建物賃貸借について更新を拒絶したい場合には、
そもそも借地借家法第26条が定める通知の時期を守っているか、
さらに第28条の正当事由が認められるかについても検討する必要があります。
「契約期間が満了するから大丈夫。」
「店舗が無理なら、駐車場だけ返してもらえばよい。」
という判断だけで更新拒絶や明渡請求を進めると、
後に更新拒絶自体が認められない可能性があります。

賃貸借契約を終了させることができるかどうかは、契約書の記載だけではなく、
契約締結の経緯や物件の利用状況などを総合的に検討する必要があります。
ネット上の情報やAIによる回答だけで判断するのではなく、
個別の事情に応じた適切な判断をすることが大切です。
ご心配な方は専門家へのご相談をおすすめいたします。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。
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