仲介会社に紹介された物件を売主から直接購入―仲介手数料は支払う必要がある?
2026.09.24
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
不動産を購入する際、仲介会社から物件を紹介してもらい、
内覧や価格交渉などを進めたものの、
最終的にはその仲介会社を通さずに売主と直接契約するケースがあります。

このような場合、仲介会社から、
「こちらが物件を紹介して契約準備まで進めたのだから、
仲介手数料を支払ってほしい。」と言われることがあり得ます。
では、媒介契約書を作成していなくても、
口頭やこれまでのやり取りによって媒介契約が成立したことになるのでしょうか。
今回は、実際の裁判例を参考にした架空の事例により、
口頭・黙示による媒介契約の成立について解説します。

【相談内容】
中古住宅を購入したAさんからのご相談。
Aさんは、不動産会社B社の広告を見て、気になる物件を見つけました。

そこでB社に連絡し、何度か内覧をした後、購入申込書を提出しました。
B社には、
・住宅ローンの事前審査の手配
・売主との価格交渉
・リフォーム業者との調整
・売買契約書の案の作成
などをしてもらいました。
しかし、その後、事情があってAさんはB社を通じて購入することをやめ、
最終的には売主と直接売買契約を締結しました。
するとB社から、「すでに媒介契約は成立しています。」
「これだけ仕事をしたのに、直接売主と契約するのは仲介業者を飛ばす行為です。」
として、仲介手数料相当額を請求されました。
もっとも、AさんはB社との間で媒介契約書を作成したことはありません。
この場合でも、仲介手数料を支払わなければならないのでしょうか。

【弁護士からの回答】
結論から申し上げると、
媒介契約書を作成していなくても、媒介契約が成立する可能性はあります。
しかし、物件を紹介してもらったり、購入申込書を提出したり、
仲介会社が一定の業務を行っただけで、
当然に媒介契約が成立するわけではありません。
今回参考となるのが、東京地方裁判所令和3年12月24日判決です。

仲介会社はかなりの業務を行っていた
実際の裁判事例では、買主は仲介業者の折込広告を見て物件を知り、
複数回内覧した後、購入申込書を提出しました。
その後、仲介業者は、
・住宅ローンの事前審査申込みの代行
・リフォーム業者とのやり取り
・売買代金の減額交渉
・媒介報酬の減額検討
・売買契約書案の作成
などを行っていました。
しかし、買主は途中で別の仲介業者に依頼し、
最終的には仲介業者を通さず、売主と直接売買契約を締結しました。
そこで最初の仲介業者は、
「黙示の媒介契約が成立していた」
として、仲介報酬相当額を請求しました。
媒介契約は口頭でも成立する
裁判所は、不動産の媒介契約について、
契約書を作成しなければ絶対に成立しない契約ではなく、
口頭でも成立し得ることを前提としています。

しかし、一般の買主にとって仲介手数料は高額になることがあり、
不動産取引自体も頻繁に行うものではありません。
そのため裁判所は、通常一般人が、
媒介契約書を作成なく契約を成立させる意思を持っているとは考えにくい
としました。
重要なのは「契約内容について合意していたか」
この裁判で特に重要なのは、
仲介会社がどれだけ仕事をしたかだけではなく、
媒介契約の重要な内容について双方の意思が一致していたか
という点です。
この事件では、物件の概要や仲介手数料について一定の説明はされていました。
しかし、それ以外の契約条件について、
具体的なやり取りがされた形跡はありませんでした。
そのため裁判所は、
黙示的にも媒介契約を締結する意思があったとは認めませんでした。
控訴審の東京高等裁判所令和4年6月14日判決でも、
「口頭で契約が成立するためには、
契約の重要な要素について双方の意思が合致している必要がある」
として、媒介契約の成立は否定されています。
「これだけ仕事をしたのだから報酬を払って」は認められる?
仲介業者側としては、
「住宅ローン手続や価格交渉までしたのだから、何も支払われないのはおかしい。」
と考えるかもしれません。
しかし、この裁判では、このような業務を行ったことだけを理由として、
媒介契約の成立を認めることも否定されました。
また、「媒介契約を締結して仲介手数料を得られるという期待を侵害された。」
という不法行為に基づく請求についても認められませんでした。

【今回のポイント】
媒介契約は、必ずしも書面がなければ成立しない契約ではありません。
そのため、媒介契約書にサインしていないから、絶対に仲介手数料は発生しない。」
という理解も正確ではありません。

一方で、「物件を紹介した」「内覧をした」「購入申込書を提出した」
「価格交渉やローン手続まで行った」という事情だけで、
当然に媒介契約が成立するわけでもありません。
今回の裁判例では、媒介報酬、契約期間、違約金など、
媒介契約の重要な内容について双方の意思が一致していたかが重視され、
媒介契約の成立が否定されました。
もっとも、別の事案では、重要な契約内容について意思の合致があったとして、
黙示の媒介契約の成立が認められた裁判例もあります。
したがって、「媒介契約書がないから大丈夫」
「仲介会社を通さず直接契約すれば手数料は発生しない」
と単純に判断することはできません。
逆に仲介業者側としても、
後から「口頭で媒介契約が成立していた」と争うことがないよう、
早い段階で媒介契約書を作成しておくことが重要です。
実際、宅地建物取引業法では、媒介契約を締結した宅建業者に対し、
その内容を記載した書面を依頼者に交付することが求められています。
仲介手数料の支払義務があるかどうかは、媒介契約書の有無だけではなく、
それまでの交渉経過や説明内容などを確認して判断する必要があります。
ご心配な方は、より詳細なご相談をおすすめいたします。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。
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