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陽なた法律事務所の弁護士が綴る、日常や法に関する豆知識ブログです。

購入した土地の一部が実は隣地だったー20年以上使っていれば取得時効は成立する?

2026.10.05

執筆者 陽なた法律事務所 弁護士  松井竜介

 

こんにちは。弁護士の松井です。

 

土地や戸建てを購入するとき、

「このブロック塀までが敷地です。」

「この石が並んでいるところが隣地との境界です。」

などと、売主や不動産業者から説明を受けることがあります。

 

ところが、購入から長い年月が経った後、建替えや売却のために測量したところ、

「自分の土地だと思っていた部分が、実は隣地だった。」ということがあります。

 

では、20年以上にわたり自分の土地だと思って使い続けていた場合、

その部分を取得時効によって自分の土地にすることはできるのでしょうか。

 

今回は、実際の裁判例を参考にした架空の相談事例により、

土地の境界と取得時効について解説します。

 

【相談内容】

一戸建てを所有するAさんからのご相談。

Aさんは、20年以上前に中古住宅とその敷地を購入しました。

 

購入するとき、売主から現地で、

「ここに並んでいる石までが、この土地です。」

と説明されました。

 

Aさんはその説明を信じ、それ以降は、

その石の位置までを自分の土地として庭などに利用してきました。

ところが、今回、建物を建て替えることになり境界を詳しく調べたところ、

これまで自分の土地だと思っていた部分の一部が、

登記上は隣地であることが分かりました。

 

隣地所有者からは、「そこは私の土地です。」と言われています。

 

Aさんとしては、

購入したときから自分の土地だと思って20年以上使ってきたので、

今さら返さないといけないのは、納得できない様子。

 

このような場合、取得時効を主張することはできるのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

結論から申し上げると、他人の土地であっても、

所有する意思をもって一定期間占有し続けた場合には、

取得時効が成立することがあります。

 

今回参考となるのが、東京高等裁判所平成12年3月22日判決です。

売主から示された境界を信じて土地を購入

実際の裁判では、買主は昭和49年に土地と建物を購入しました。

 

その際、売主から、地上に並んでいる石の列が隣地との境界である

と説明を受け、買主もそれを信じて土地の引渡しを受けました。

外見上も、その石の列が土地の境界のように見える状態でした。

ところが、その後、土地の境界を確認したところ、

石の列と実際の境界が異なっており、

買主が自分の土地だと思って使用してきた部分の一部が、

実は隣地であることが問題になりました。

 

そこで買主は、その部分について取得時効を主張しました。

 

取得時効で重要な「所有の意思」とは?

民法第162条は、所有の意思をもって、

平穏かつ公然と他人の物を20年間占有した者は、

その所有権を取得すると定めています。

 

今回の裁判で重要になったのが、

買主がどのような認識でその土地を使用していたのか

という点です。

 

例えば、「隣地所有者から借りている。」「好意で使わせてもらっている。」

という認識で使用しているのであれば、

自分の土地として占有している場合とは異なります。

 

しかし今回の買主は、売主から境界を示され、

「ここまでが自分が買った土地だ。」

と信じて占有を始めていました。

 

裁判所は、このような購入の経緯などから、

買主が所有の意思をもって土地を占有していたことを認め、

取得時効の成立を認めました。 

 

後から隣地所有者と交換交渉をしていても時効取得できる?

この裁判では、もう一つ興味深い事情があります。

境界問題が判明した後、買主は隣地所有者との間で、

問題となっている土地と別の土地を交換する交渉をしていました。

一見すると、

「相手の土地だと認めたから、土地交換の交渉をしたのではないか。」

とも考えられます。

 

しかし、裁判所はそのようには判断しませんでした。

 

買主が土地交換を検討したのは、境界問題を円満に解決し、

速やかに建物の建替えを進めるためであり、

すでに完成した取得時効を主張しないと約束したものではないと判断しました。

 

そのため、土地交換の交渉をしたことだけを理由として、

取得時効の主張が否定されることもありませんでした。 

 

「20年使えば必ず自分の土地になる」わけではない

ここは注意が必要です。

 

今回の裁判例から、「他人の土地でも20年間使えば自分のものになる。」

と理解するのは正確ではありません。

 

取得時効が成立するためには、占有期間だけでなく、

「どのような経緯で占有を始めたのか」

「自分の土地として使用していたのか」

「途中で占有の性質が変わっていないか」

などを確認する必要があります。

 

今回の裁判では、売主から示された境界を信じて土地を購入し、

その範囲を自分の土地として長期間使用してきたという事情が重要でした。

 

土地を買うときこそ境界確認が重要

もっとも、このような問題は、

できれば取得時効の裁判になる前に防ぎたいところです。

 

現地に、「塀がある」「フェンスがある」「境界らしい石がある」

というだけで、それが法律上の境界と一致しているとは限りません。

 

土地や戸建てを購入するときには、境界標や測量図を確認するとともに、

必要に応じて隣地所有者との境界確認がされているかを確認することが重要です。

 

【今回のポイント】

今回の東京高等裁判所平成12年3月22日判決では、

土地の買主が、売主から示された境界を信じて購入し、

自分の土地として長期間使用してきたことなどから、

隣地の一部について取得時効が認められました。 

 

ただし、「20年間使った」という事実だけで、

当然に取得時効が成立するわけではありません。

 

どのような経緯でその土地の占有を始めたのか、借りて使っていたのか、

自分の土地だと思って使用していたのかなど、

個別の事情によって結論は変わります。

 

また、この裁判例は、土地を購入するときの境界確認がいかに重要か

ということも示しています。

 

購入時に売主から説明された境界をそのまま信じ、

何十年も経ってから問題が発覚すると、隣地所有者との交渉だけでなく、

取得時効や所有権移転登記まで問題になることがあります。

 

土地の境界や取得時効について問題が生じた場合には、

公図、測量図、売買契約書、境界標の状況、

これまでの土地の利用状況などを確認した上で、個別に判断する必要があります。

 

ネット上の情報やAIによる回答だけで判断するのではなく、

個別の事情に応じた適切な判断をすることが大切です。

 

※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、

実在の人物、団体とは一切関係ありません。

 

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【参考記事】

「昔から使っている土地だから俺のもの」…本当に明け渡してもらえないの? ~長年占有された土地でも取り戻せる場合があります~

土地の境界線がはみ出した場合に時効取得されるのか?

土地の時効取得をされない(阻止する)ためには?

 

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