「長年黙認していたから解除できない」は本当? 無断転貸・無断改装を理由とする契約解除が認められた裁判例
2026.07.16
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
賃貸経営をしているオーナーの方から、
「借主が勝手に第三者へ貸していた。」
「店舗の内装や設備を、相談もなく大幅に変更していた。」
というご相談を受けることがあります。
もっとも、こうしたケースでは、借主側から、
「大家さんも前から知っていたはずだ。」
「長年何も言わなかったのだから、今さら契約を解除することはできない。」
という反論がされることも少なくありません。

今回は、このような無断転貸や無断改装を理由とする契約解除について、
解除を認めた裁判例をご紹介します。

【相談内容】
店舗の所有者(オーナー)Aさんからのご相談。
Aさんは、数十年前からBさんに店舗を賃貸していました。
当初はBさん自身が営業をしていましたが、
いつの頃からか店舗は別の料理店となり、
さらに別の事業者が営業するようになりました。
また、店内を確認したところ、
・トイレの位置が変更されている
・倉庫が移設されている
など、大規模な改装工事も行われていました。
賃貸借契約書には、
「転貸には賃貸人の承諾が必要である。」
「模様替えや改装には書面による承諾が必要である。」
との条項がありました。
しかし、Aさんにはそのような記憶がありません。
そこでAさんは、無断転貸や無断改装を理由として契約を解除し、
建物の明渡しと原状回復費用の支払いを求めることを検討しています。

一方、Bさん側は、
「以前に説明して承諾を得ている。」
「オーナーは以前から状況を知っていた。」
「今さら解除するのはおかしい。」
と主張しています。
Aさんの請求は認められるのでしょうか。

【弁護士からの回答】
結論からいうと、今回のご相談内容と同種事案の裁判例があり、
その東京地方裁判所令和4年1月25日判決において、
裁判所は、貸主側(Aさん)の請求を認め、借主側(Bさん)に対して、
建物の明渡しと原状回復費用の支払いを命じました。

裁判所の判断① 無断転貸の承諾は認められなかった
借主側は、
「以前、貸主や管理担当者に転貸について説明し、承諾を得ていた。」
と主張しました。
しかし、裁判所は、
転貸を承諾したことを裏付ける証拠は存在しない
として、この主張を退けました。
また、第三者が、
「オーナーは転貸を認めていると聞いていた。」
と述べていたとしても、
それだけでは貸主の承諾があったことの証明にはならないと判断しています。
実際に、転貸の承諾があったことを確実に証明するためには、
承諾書など客観的に明らかな書面の存在が重要ということになります。
裁判所の判断② 無断改装も契約違反と判断】
本件の契約書には、店舗や造作の模様替えについては、
賃貸人の書面による事前承諾が必要であると定められていました。
借主は、店舗内のトイレや倉庫の位置を変更していましたが、
裁判所は、これらの工事は単なる修繕ではなく、
店舗の用途や構造を変更する「模様替え」に当たると判断しました。
そして、貸主の書面による承諾を認める証拠がない以上、
契約違反であると認定しました。
こちらも承諾について書面の重要性が認められます。

裁判所の判断③ 「大家は前から知っていた」という主張は認められなかった
借主側は、
「貸主は以前から転貸や改装の事実を知っていたのだから、
今になって契約を解除することは信義則違反だ。」
とも主張しました。
しかし裁判所は、
トイレや倉庫の移設については、貸主がいつ認識したのか明らかではなく、
また、転貸についても、
外見だけでは容易に把握できるものではないと指摘しました。
そのため、貸主が以前から転貸の事実を認識していたとは認められず、
契約解除は権利濫用や信義則違反には当たらないと判断しました。
このように貸主が以前から転貸や改装を知っていた、
黙認していたという主張は認められませんでしたが、
これは転貸や改装の事実を認識していたとは認められないという判断であり、
かりにどの時点かで具体的に認識していた場合には、
違う判断になる可能性もあるため、注意が必要です。
原状回復費用も認められた
裁判所は、借主側に原状回復を行う意思が認められないとして、
貸主による原状回復費用の請求も認めました。
もっとも、貸主は約774万円を請求していましたが、
裁判所は、必要な原状回復費用として約273万円を認定しています。

【今回のポイント】
今回の裁判例から分かることは、次のとおりです。
・無断転貸や無断改装は、賃貸借契約の重大な違反となる可能性があります。
・「口頭で承諾を得ていた」という主張だけでは足りず、
承諾の事実を裏付ける証拠が重要です。
・賃貸人が長年気付かなかったとしても、
それだけで解除権を失うわけではありません。
・後日の紛争を避けるためにも、転貸や改装の承諾については、
必ず書面で残しておくべきです。
店舗賃貸では、営業形態の変更や第三者への引継ぎ、
内装工事などが行われることが少なくありません。
しかし、借主としては、
「前のオーナーが了解していたはずだ。」
「長年問題にならなかった。」
と考えていても、後になって契約違反として問題になる可能性があります。
一方、オーナー側としても、契約書の内容を確認し、
転貸や改装の承諾をする場合には、必ず書面を残しておくことが重要です。

賃貸借契約は長期間に及ぶことが多いからこそ、
当事者双方が証拠を残しながら適切に管理することが、
将来のトラブル防止につながります。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。
【参考記事】











