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陽なた法律事務所の弁護士が綴る、日常や法に関する豆知識ブログです。

不動産会社に立退交渉を任せて大丈夫?コンサル料の返還が認められた裁判例を弁護士が解説

2026.06.08

執筆者 陽なた法律事務所 弁護士  松井竜介

 

こんにちは。弁護士の松井です。

 

不動産に関して、売却、建替、再開発の場面では、

建物の賃借人に退去してもらう必要が生じます。

 

そのような場合に、不動産会社から

「立退交渉も含めて対応します」と言われることがあります。

 

もっとも、借主との立退交渉は、その内容によっては弁護士でなければ、

行うことができない業務に該当する可能性があります。

 

今回は、架空の相談事例をもとに、

不動産会社による立退交渉と弁護士法第72条の問題、

さらにコンサルティング料の返還が認められた裁判例について解説します。

 

【相談内容】

建物の所有者(オーナー)Aさんからのご相談。

 

父Bから相続したアパートを売却することになりましたが、

一部の部屋には長年居住している借主Cさんがおり、不動産会社D社から、

「立退交渉も含めて全部こちらで対応します」と言われました。

 

その後、D社はCさんとの交渉を行い、退去を実現しましたが、

「コンサルティング料」として220万円を請求されました。

 

その費用を支払いましたが、後になって知人Eから、

「それは弁護士しかできない業務ではないの?」と言われました。

 

この場合、D社に支払った費用を返してもらうことはできるのでしょうか?

 

 

【弁護士からの回答】

結論からいうと、D社が報酬を得る目的で、

Cさんとの立退条件を交渉していた場合には、

弁護士法第72条に違反する可能性があります。

 

また、そのような契約が無効と判断された場合には、

支払ったコンサルティング料の返還を求めることができる場合があります。

 

弁護士法第72条とは?

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士法 第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 

弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で、

法律事務を取り扱うことを禁止しています。

 

簡単にいうと、他人の権利義務や法律関係に関する問題について、

報酬を得る目的で交渉や代理を行うことは、原則として弁護士しかできません。

 

例えば、

  • 示談交渉
  • 債権回収交渉
  • 和解交渉
  • 契約条件の交渉

などは典型的な法律事務です。

 

このような行為を弁護士資格のない者が業として行うことは、

いわゆる「非弁行為」と呼ばれ、弁護士法違反となる可能性があります。

 

立退交渉はなぜ法律事務なのか

立退交渉では、

  • いつ退去するか
  • 立退料をいくら支払うか
  • 原状回復をどうするか
  • 明渡しの条件をどうするか

といった事項について協議が行われます。

 

これらは単なる事務手続ではありません。

 

賃貸借契約に基づく権利義務に関する問題であり、

当事者間の利害が対立することも少なくありません。

 

そのため、立退交渉は典型的な法律事務に該当すると考えられています。

 

最高裁も立退交渉について弁護士法違反を認めている

刑事事件の事案である、最高裁平成22年7月20日判決では、

ビルオーナーから依頼を受けた不動産会社関係者らが、

多数の賃借人との立退交渉を行った事案が問題となりました。

 

最高裁は、

『多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務』

について

『立退合意の成否、立退の時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件』

 

と判断して、弁護士法第72条違反の成立を認めました。

 

この判決は、まだ裁判になっていない段階であっても、

立退条件をめぐる交渉そのものが、

法律事務に当たり得ることを示した重要な判断です。

 

「コンサルティング契約」でも適法とは限らない

中には、「交渉ではなくコンサルティングだから問題ない」

と説明する業者もいます。

しかし、契約の名称だけで適法になるわけではありません。

 

大阪高裁平成28年10月4日判決では、不動産会社が売主から依頼を受け、

  • 居住者との立退交渉
  • 貸金問題の調整
  • 相続問題の調整

などを行っていた事案について、弁護士法第72条違反に当たると判断しました。

 

裁判所は、コンサルティング契約そのものを無効とした上で、

  • コンサルティング料203万円
  • 謝礼金50万円

の支払について損害賠償責任を認めています。

 

契約書に「コンサルティング」と書かれていても、

実質的に法律事務を行っていれば違法と判断される可能性があるということです。

 

どこまでなら不動産会社が対応できるのか

誤解してはいけないのは、

不動産会社の業務がすべて問題になるわけではないということです。

 

例えば、一般的に適法と考えられる業務として、

  • 物件調査
  • 売買や賃貸の仲介
  • 建物の管理業務
  • 借主との日程調整
  • 引越しに関する事務的な手配

 

問題となる可能性がある業務として

  • 立退料の金額交渉
  • 明渡時期の交渉
  • 契約条件の調整
  • 法律上の権利義務を前提とした交渉
  • 当事者の代理人としての折衝

 

実際に問題となるかどうかは個別事情によりますが、

借主との間で権利義務に関する条件交渉を行っている場合には注意が必要です。

 

本件ではどうなる?

今回の相談事例では、

  • 不動産会社が借主と直接交渉している
  • 立退条件を調整している
  • 高額なコンサルティング料を受領している

という事情があります。

 

そのため、実際の裁判例と同様に、

弁護士法第72条違反が問題となる可能性があります。

 

仮に契約が無効と判断されれば、

支払済みのコンサルティング料については、

不当利得返還請求が認められる余地があります。

また、事案によっては不法行為に基づく損害賠償請求についても、

認められる可能性もあります。

 

【今回のポイント】

不動産売買の現場では、

「退去交渉も全部対応します」

という説明を受けることがあります。

 

もっとも、借主との間で、

  • 立退料をいくらにするか
  • いつ退去するか
  • 明渡条件をどうするか

といった交渉を報酬目的で行う場合には、

弁護士法第72条違反が問題となる可能性があります。

 

また、そのような契約が無効と判断された場合には、

支払ったコンサルティング料の返還が認められることもあります。

 

不動産会社から高額なコンサルティング料や、

立退支援費用を請求された場合には、

支払う前に一度弁護士へ相談することをおすすめします。

 

不動産会社も安易に立退交渉を引き受けないことが重要

立退交渉は、不動産売買や再開発の現場で日常的に発生するため、

建物所有者から「借主との交渉もまとめてお願いしたい」

と依頼されることがあります。

 

しかし、依頼者のために立退料や明渡時期などの条件交渉を行うことは、

内容によっては弁護士法第72条違反に該当する可能性があります。

 

実際に、上記のとおり、立退交渉等を行った不動産会社について、

刑事責任や民事上の損害賠償責任が問題となった裁判例も存在します。

 

そのため、不動産会社としては、

  • 立退料の金額交渉を代行しない
  • 権利関係に関する交渉を行わない
  • 法的な条件交渉が必要な場合には弁護士への相談を勧める

といった対応を心掛けることが重要です。

 

建物所有者の要望に応えようとして安易に交渉業務を引き受けた結果、

かえって大きな法的リスクを負う可能性があるため、十分な注意が必要です。

 

※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、

実在の人物、団体とは一切関係ありません。

 

当事務所への無料相談受付はこちらまで

 

【参考記事】

不動産業者の責任(重要事項説明義務など)について

不動産の仲介手数料って何のお金?

 

 

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