「昔から使っている土地だから俺のもの」…本当に明け渡してもらえないの? ~長年占有された土地でも取り戻せる場合があります~
2026.09.01
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
今回は、「長年他人が使っている土地を購入した場合、
その土地を返してもらうことができるのか」
というテーマについて、架空の相談事例と実際の裁判例をもとに解説します。

「昔から使っているから自分の土地だ。」「時効で取得した。」
このような主張を受け、不安になる土地所有者の方は少なくありません。
しかし、長年占有しているというだけで、その人のものになるとは限りません。

【相談内容】
土地所有者Aさんからのご相談。
私は事業用建物を建築するため、必要となる土地を少しずつ購入してきました。
その後、隣接する土地も取得し、測量や登記の整理を進めたところ、
近所の建築業者Bさんが長年資材置場として使用している土地の一部が、
実は私が購入した土地に含まれていることが判明しました。
さらに、その土地の一部は、別の土地所有者との裁判を経て、
和解金約270万円を支払って取得した土地でもあります。

そこでBさんに、
「そこは私の土地ですので返してください。」
とお願いしたところ、
Bさんは、
「私は何十年も前からこの土地を使っています。」
「時効で私の土地になっています。」
「登記があっても私の方が優先です。」
と言って明け渡しを拒否しました。
私は代金も支払い、土地の登記も備えています。
それでも長年使われていたというだけで、土地を返してもらえないのでしょうか。

【弁護士からの回答】
結論から申し上げると、
必ずしも「長年使っていた人」が優先されるわけではありません。
今回とよく似た事案について判断したのが、
福岡高等裁判所平成18年9月5日判決です。

裁判の事案
この事件では、建築業者が長年資材置場として使用していた土地について、
後から神社が代金を支払い、登記も備えて取得しました。
すると建築業者は、「私は長年占有しているから時効取得した。」
として土地の所有権を主張しました。
一見すると、「長年使っている人が勝つのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし裁判所は、そのような単純な判断はしませんでした。
時効取得が成立していても、それだけでは終わりではない
確かに、土地を長年占有すると、
一定の条件のもとで取得時効が成立する場合があります。
しかし、その後に第三者がその土地を購入し、
登記を備えた場合には、どちらを法律上保護すべきか
という問題が生じます。
この点について民法第177条は、
登記を備えた人を保護するためのルールを定めています。

民法 第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
つまり、
時効取得が成立しているからといって、必ずその人が優先されるわけではない
のです。
裁判所の判断
福岡高等裁判所は、建築業者による時効取得自体は認めました。
しかし一方で、神社は、事業用地を確保するため、
裁判上の和解で約270万円を支払い、正式に土地を取得し、
登記も備えていたことを重視しました。
その結果、神社は民法第177条の「第三者」に当たり、
建築業者は、登記を備えた神社に対して時効取得を主張することはできない
と判断しました。
そして、神社による土地の明渡請求を認めています。
「知っていた」だけでは負けるわけではない
この事件で特に重要なのが、
「背信的悪意者」
という考え方です。

難しい言葉ですが、簡単に言えば、
「あまりにも不公平な方法で権利を主張する人は保護されません」
というルールです。
建築業者は、神社が自分たちの占有を知っていたのだから、
神社は保護されるべきではないと主張しました。
しかし裁判所は、単に相手が長年使用していることを知っていただけでは足りない
と判断しました。
さらに、神社は代金を支払い、
裁判で和解を成立させ、正式に土地を取得しているのであり、
このような取得者まで保護されないとすると、
かえって公平を失すると述べています。
そのため、神社は「背信的悪意者」には当たらないと判断されました。
結論として、神社側が勝つことになります。

【今回のポイント】
今回の裁判例から分かることは次のとおりです。
✅ 長年土地を使っている人が必ず勝つわけではありません。
✅ 時効取得が成立していても、後から土地を取得し登記を備えた第三者が保護される場合があります。
✅ 「昔から使っていることを知っていた」という事情だけで、土地を取得した人が不利になるわけではありません。
✅ 土地を取得した経緯や、代金を支払った事情、公平性なども重要な判断要素になります。
土地を購入した後になって、
「昔から使っているから自分の土地だ。」「時効で取得した。」
と言われるケースは、不動産実務では決して珍しくありません。
しかし、時効取得の問題は、単に占有期間だけで決まるものではなく、
登記の有無や取得の経緯、民法第177条の第三者に当たるかどうか、
さらに背信的悪意者に当たるかどうかなど、
さまざまな事情を総合的に考慮して判断されます。
そのため、
「長年使われているからもう取り戻せない」と諦める必要はありません。
土地の境界や時効取得をめぐるトラブルは、
事実関係や登記の状況によって結論が大きく変わります。
土地の一部を長年占有されている、
あるいは購入した土地について所有権を争われているという場合には、
早い段階で専門家へ相談することをおすすめします。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。
【参考記事】











