サブリース契約の解約について、正当事由と立退料の中身
2024.10.30
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
今回は架空の相談事例をもとに、解決方法や裁判例を紹介したいと思います。
【相談内容】
建物の所有者(オーナー)Aさんからのご相談。
私は福岡市南区にアパートを1棟所有しております。
4年ほど前に、サブリース会社B社にそのアパートをまるごと貸しました。
なぜB社に貸したかというと、B社が入居者を探してきてくれて、
さらにB社は満室保証をしてくれるということで、
もし入居者がいなくても家賃分を保証してくれるからです。
アパートを経営していると常に空室のリスクがあって気が休まることがなく、
契約時点では安心してお貸ししました。
ただ、契約書上、もし私とB社との賃貸借契約が終了した場合には、
入居者との関係を私が引き継ぐことになっており、この点は気になってました。
B社とのサブリース契約から3年半ほど経ったころ、
B社から入居者が退去するという報告を受けました。
ちょうどその頃、自宅は別にあるのですが、その自宅がかなり古くて、
建設業者から補修改修費用がかなりかかると言われており、
まとまった資金が必要になったのですが、手元には十分な資金が無いため、
先ほどのアパートを売却して、自宅の補修改修費用に充てようかと
考え始めた矢先でした。
もし入居者がいなければ、B社との契約が終了しても、
入居者との関係を引き継がなくて良いので、
この入居者がいなくなったタイミングで、
B社に契約を更新しないことと新しい入居者を入れないで欲しいと伝えました。
それから先日契約期間の4年が終了したのですが、
B社は私からの更新拒絶には正当な事由がないと主張して、
契約終了を認めませんし、
新しい入居者も入れてしまっているようです。
今回ご相談したいのは、
①B社とのリース契約を終了できますか?
②もし契約終了で立退料を支払わないといけない場合に、
いくらぐらい支払わないといけないのでしょうか?
【弁護士からの回答】
①のご質問については、
まずB社との関係では、借地借家法が適用されます。
借地借家法第28条では、
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
と規定されていますから、
結局更新拒絶するためには「正当の事由」が必要になります。
今回、Aさんがアパート自体に住むわけではないので、
Aさんは自分で「建物を必要とする事情」はないものの、
自宅改修のために、まとまった資金が必要ということで、
より高値で売るためには、入居者がいないタイミングでの売却が適切でした。
このような場合に「正当の事由」があると言えるかですが、
同じような事例の東京地裁平成27年8月5日判決では、
期間満了日をもって本件契約を終了させるべき強い必要性
があったと判断しています。
②については、B社は入居者から転借料を得ていますが、
その反面Aさんに賃料を支払わなければならず、
B社の利益は転借料から賃料を引いた金額になります。
具体的には、その何か月分が適切かは難しいところですが、
先ほどの東京地裁平成27年8月5日判決では、
転借料から賃料を引いた利益が3万3000円のところ、
立退料50万円(15か月分強)が相当と判断され、
最終的に明け渡しが認められています。
よって、これぐらいの金額は支払うよう打診されてはいかがでしょう。
【今回のポイント】
ご紹介した東京地裁平成27年8月5日判決によれば、
借地借家法第28条の「正当の事由」=「建物の自己使用の必要性」
というわけではなく、
「期間満了日をもって本件契約を終了させるべき強い必要性」
という表現になっています。
また、立退料に関しても、サブリースであれば、
B社はそもそも建物を自ら使用していないので、
引っ越し費用などの実費が生じえないという事情もあり、
比較的低額になったのではないかと思います。
そして、立退料の計算では、B社の売り上げではなく、
あくまで利益部分が根拠とされている点も参考になります。
ご質問への回答は以上ですが、残された問題点としては、
③入居者との関係はどうなるのか、
④またB社に投下資本があるなどの事情によっては、
立退料が増額する可能性がありますので、
より詳細なご相談をおすすめいたします。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。
【参考記事】