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陽なた法律事務所の弁護士が綴る、日常や法に関する豆知識ブログです。

「転売したら違約金5億円」と請求された―契約書どおり全額支払う必要はある?

2026.11.02

執筆者 陽なた法律事務所 弁護士  松井竜介

 

こんにちは。弁護士の松井です。

 

不動産売買契約では、「一定期間は転売してはならない」

「この約束に違反した場合には違約金を支払う」

といった特約が設けられることがあります。

では、契約書に、「違反した場合の違約金は5億円」

と明確に書かれており、双方がその内容に合意していた場合、

本当に5億円全額を支払わなければならないのでしょうか。

 

今回は架空の相談事例をもとに、解決方法や裁判例を紹介したいと思います。

 

【相談内容】

不動産会社A社からのご相談。

 

A社は、ある土地建物を5億円で購入しました。

 

売買契約に際して、売主との間で覚書を作成し、

「売買代金の支払いから5年間は、この不動産を第三者に転売してはならない」

と定めました。

 

さらに、

「覚書に違反した場合には、売買代金相当額である5億円を違約金として支払う」

という条項も設けられていました。

ところが、購入後、金融機関から建物について問題を指摘され、

そのまま保有し続けることが難しい状況になりました。

 

そこでA社は、購入から数か月後に、この不動産を第三者へ売却しました。

 

すると元の売主から、「5年間は転売しないという約束に違反しています。」

「覚書どおり、違約金として5億円を支払ってください。」と請求されました。

 

確かに、A社は覚書に署名しており、5年以内に転売したことも事実です。

 

しかし、購入代金も5億円だったのに、

さらに5億円もの違約金を支払わなければならないのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

結論から申し上げると、

契約書に違約金額が明記されていても、

その金額が著しく過大な場合には、公序良俗に反するとして、

その全部または一部の効力が否定されることがあります。

 

今回参考となるのが、東京地方裁判所平成25年5月29日判決です。

この裁判では、売買代金5億円の不動産について、

「残代金の支払いから5年間は転売してはならない」

「違反した場合には、売買代金相当額である5億円を違約金として支払う」

という覚書が締結されていました。

 

転売禁止そのものは有効とされた

まず、買主は、5年間の転売禁止そのものについて争いました。

しかし裁判所は、買主が不動産取引について専門的な知識を有しており、

転売を禁止する理由についても説明を受けた上で、

覚書を締結していたことを重視しました。

 

また、転売禁止期間も永久ではなく、5年間に限定されていました。

 

そのため裁判所は、

買主が自らの判断で、一定期間転売の自由を制限することに合意した

として、転売禁止条項自体は有効と判断しました。

 

そして、買主は5年を経過する前に第三者へ不動産を売却していたため、

転売禁止条項への違反も認められました。

 

それでも違約金5億円は「明らかに過大」

一方で、問題になったのが違約金の金額です。

覚書では、売買代金と同じ5億円

を違約金として支払うことになっていました。

これについて裁判所は、違約金5億円は明らかに過大であり、

その全額を買主に負担させることは公序良俗に反すると判断しました。

 

つまり、

「契約書に5億円と書いてあるのだから、5億円全額を払わなければならない」

とはならなかったのです。

 

※民法第90条(公序良俗)

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

 

違約金条項そのものが全部無効になったわけではない

もっとも、裁判所は、「5億円は高すぎるので、違約金条項はすべて無効」

と判断したわけでもありません。

 

転売禁止の目的自体が不当なものではなく、

違約金条項そのものも不公平とはいえないことなどから、

違約金を全く認めないのも適当ではないと判断しました。

 

その結果、約定された5億円の1%にあたる500万円

の限度で違約金を認めました。

つまり、5億円を請求されたものの、裁判で認められたのは500万円

という結果になりました。

 

「契約書に書いてあるから仕方がない」とは限らない

契約書に署名押印していると、

「自分で合意したのだから、どれほど高額でも支払わなければならない。」

と思ってしまうかもしれません。

しかし、違約金の額があまりにも大きく、

契約違反の内容や契約全体とのバランスを著しく欠く場合には、

公序良俗との関係が問題になることがあります。

 

今回の判例でも、転売禁止違反そのものは認められた

一方で、違約金5億円という金額までは認められなかった

という点が重要です。

 

契約違反があることと、

契約書に記載された違約金額の全額を支払う義務があることは、

別の問題として検討する必要があります。

 

【今回のポイント】

今回の東京地方裁判所平成25年5月29日判決では、

5年間の転売禁止条項そのものは有効とされ、

買主がその約束に違反したことも認められました。

 

しかし、違反した場合に売買代金と同額の5億円を支払う

という違約金については、明らかに過大であるとして、

その全額の請求は認められませんでした。

 

一方で、違約金条項をすべて無効とすることもせず、

最終的には5億円の1%である500万円の限度で認められています。

 

したがって、

「契約書に書いてある以上、どれほど高額でも支払わなければならない」

とは限りません。

 

違約金を請求された場合には、

契約違反の内容、違約金が設定された目的、契約金額とのバランス、

違反によって相手方に生じる不利益、契約締結に至る経緯、

などを確認した上で、その違約金額が合理的なものかを検討する必要があります。

 

反対に、契約書を作成する側も、

「違反を防ぎたいから、とにかく高額な違約金を設定しておけばよい」

という考え方には注意が必要です。

 

違約金が過大である場合には、今回の裁判例のように、

裁判で大幅に制限される可能性があります。

 

高額な違約金を請求された場合や、契約書に違約金条項を設ける場合には、

金額だけを見るのではなく、その条項が法的にどこまで有効なのかについて、

個別に検討することが重要です。

 

※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、

実在の人物、団体とは一切関係ありません。

 

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