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仮審査は通ったのに住宅ローンの正式承認が間に合わない―裁判例から見るローン特約による解除

2026.09.07

執筆者 陽なた法律事務所 弁護士  松井竜介

 

こんにちは。弁護士の松井です。

 

住宅を購入するとき、多くの方が住宅ローンを利用します。

その際、売買契約には、

「一定期日までに住宅ローンの承認が得られなかった場合、売買契約を解除できる」

という、いわゆる住宅ローン特約が設けられていることがあります。

もっとも、実際の取引では、

「仮審査は通っていますから大丈夫です。」「本審査もまず問題なく通ります。」

などと言われることも少なくありません。

 

では、住宅ローンの仮審査には通っていたものの、

契約で定められた期日までに本審査の正式な承認が得られなかった場合、

買主は住宅ローン特約を使って契約を解除できるのでしょうか。

 

今回は、実際の裁判例を参考にした相談事例により、

住宅ローンの「仮審査」と「正式承認」の違いと、

住宅ローン特約による解除について解説します。

 

【相談内容】

建売住宅を購入したAさんからのご相談。

 

Aさんは、自宅として新築住宅を購入することになり、

売主である不動産会社B社との間で売買契約を締結しました。

 

売買代金は約7000万円、契約時には手付金として300万円を支払いました。

 

Aさんは住宅ローンを利用する予定で、売買契約書には、

「一定の期日までに融資の承認が得られない場合には、

その後の解除期日までであれば売買契約を解除できる」

という住宅ローン特約が設けられていました。

Aさんは売買契約を締結する前から住宅ローンの仮審査を申し込んでおり、

その後、金融機関から仮審査については承認を得ることができました。

 

そこでB社からは、「仮審査は通っていますので、本審査も問題ないでしょう。」

と言われていました。

 

しかし、その後も正式な本審査の手続が続き、

契約書で定められていた「融資承認取得期日」になっても、

金融機関から正式な融資承認は出ませんでした。

 

そこでAさんは、住宅ローン特約に基づいて売買契約を解除し、

手付金300万円の返還を求めました。

 

ところがB社から、

「仮審査はすでに通っています。」

「本審査が通らない事情もなく、実質的には融資承認を得ているのと同じです。」

「住宅ローン特約による解除は認められません。」

と言われ、手付金の返還を拒否されてしまいました。

 

Aさんは、本当に住宅ローン特約を使って、

契約を解除することができないのでしょうか。

 

【弁護士からの回答】

結論から申し上げると、仮審査に通っているからといって、

当然に「融資の正式な承認を得た」ことになるわけではなく、

契約を解除できる可能性があります。

 

実際に、仮審査には通っていたものの、

契約で定められた融資承認取得期日までに、

正式な審査の承認が得られなかった買主について、

住宅ローン特約による契約解除を認めた裁判例があります。

 

今回参考となるのが、東京地方裁判所平成31年1月9日判決です。

仮審査は通っていたが、本審査の承認は出ていなかった

この裁判では、買主が建売住宅を7380万円で購入し、

売主に手付金300万円を支払っていました。

 

売買契約では、住宅ローンについて、

・融資承認取得期日 平成30年2月19日
・契約解除期日 平成30年2月21日

と定められていました。

 

また、

「融資承認取得期日までに融資の全部または一部について承認が得られないとき、または否認されたときは、契約解除期日までであれば買主は契約を解除することができる」

という住宅ローン特約が設けられていました。

 

買主は、売買契約を締結する前から住宅ローンの仮審査を申し込み、

金融機関から仮審査については承認を得ていました。

 

しかし、融資承認取得期日である2月19日になっても、

正式な本審査については承認されていませんでした。

 

そこで買主は、その日のうちに売主に対して住宅ローン特約に基づいて、

売買契約を解除すると通知し、翌日にも書面で解除を通知しました。

 

「仮審査の承認」と「正式な融資承認」は同じではない

売主側は、「本審査で承認されないような特別な事情はなかった。」

「仮審査に通った時点で、実質的には融資の承認を得ていたと考えるべきだ。」

と主張しました。

 

しかし、裁判所は、この主張を認めませんでした。

金融機関では、仮審査の承認後にも、

・住民票

・納税証明書などの追加書類

・金融機関との面談

などが必要とされ、その内容を踏まえて、

改めて正式審査が行われることになっていました。

 

そのため裁判所は、

仮審査に通っていたとしても、正式審査の承認がなければ、

実際に融資を受けられることが確定したとはいえない

と判断しました。

 

つまり、

「仮審査が通った」ことと、「住宅ローンが正式に承認された」ことは別の問題

なのです。

 

契約書に書かれている「承認」とは何を意味するのか

今回の売買契約では、「融資承認取得期日までに承認が得られないとき」

という条件になっていました。

裁判所は、買主が仮審査には通っていたものの、

融資承認取得期日までに正式審査の承認を得られていなかった以上、

「承認が得られないとき」に該当すると判断しました。

 

さらに、買主は契約解除期日までに解除の意思表示をしていました。

 

そのため、住宅ローン特約に定められた解除の条件を満たしているとして、

売買契約の解除を認めています。

 

結果として、売主に対し、

買主が支払っていた手付金300万円の返還が命じられました。

 

「本審査の手続が遅かったから解除できない」という主張は?

この裁判では、売主から、「買主が速やかに本審査の手続をしていなかった。」

という主張もされました。

 

確かに、買主自身の責任で住宅ローンの審査を意図的に遅らせ、

その結果として融資承認が間に合わなかったのであれば、

住宅ローン特約による解除が認められるのかは、別の問題となり得ます。

 

しかし、今回の契約書では、住宅ローン特約による解除について、

契約解除期日までに解除するという期限以外に、

特別な条件は定められていませんでした。

そのため裁判所は、「速やかに融資申込みの手続をすること」まで、

住宅ローン特約による解除の要件になっていたとは解釈できない

と判断しています。

 

また、売主の担当者自身も、

仮審査の承認後に必要となる書類や金融機関との面談について、

十分に説明していたとは認められませんでした。

 

一方で、買主は、それらの必要性を認識した後は、

速やかに本審査の手続を進めていました。

 

そのため、買主が自ら融資手続を放置して、住宅ローン特約を利用しようとした

という評価もされませんでした。

 

「本当は住宅を買いたくなくなっただけでは?」という主張も認められなかった

さらに売主は、

「買主は両親や知人から住宅購入を反対され、気が変わっただけではないか。」

という主張もしていました。

 

つまり、「住宅ローンが通らなかったから解除したのではなく、

単に住宅を買いたくなくなったので、住宅ローン特約を利用したのではないか。」

という主張です。

 

しかし、裁判所は、そのような事実を認めるだけの証拠はないとして、

この主張も採用しませんでした。

 

そして、仮審査に通っていたとしても、

住宅ローン特約に基づいて解除することが信義則に反するものではない

と判断しています。

 

住宅ローン特約では「期限」の確認が非常に重要

もっとも、この判例から、

「本審査が終わっていなければ、いつでも住宅ローン特約で解除できる」

と考えるのは危険です。

 

今回の裁判で解除が認められた大きな理由の一つは、

買主が、融資承認取得期日までに正式承認が得られていないことを確認し、

さらに契約解除期日までに解除の意思表示をしていたことです。

住宅ローン特約には、

・どの金融機関から融資を受けるのか

・融資予定額はいくらなのか

・いつまでに融資承認を得る必要があるのか

・いつまで解除できるのか

・どのような場合に解除できるのか

などが定められていることがあります。

 

したがって、住宅ローンが予定どおり進んでいない場合には、

「まだ本審査中だから大丈夫だろう」と考えて放置するのではなく、

売買契約書に記載された期限を早めに確認することが重要です。

 

【今回のポイント】

住宅ローンの「仮審査」と「正式な融資承認」は同じものではありません。

仮審査が承認されていたとしても、

正式審査では追加書類の確認や面談などが行われ、

その結果として最終的な融資の可否が判断されることがあります。

 

今回の東京地方裁判所平成31年1月9日判決でも、

仮審査には通っていたものの、契約で定められた融資承認取得期日までに、

正式な承認が得られていなかったことから、

住宅ローン特約による契約解除が認められました。

 

したがって、「仮審査が通ったから、もう住宅ローン特約では解除できない。」

という理解は正確ではありません。

 

もっとも、住宅ローン特約によって解除できるかどうかは、

契約書にどのような条件が記載されているのか、

融資承認取得期日はいつなのか、

契約解除期日はいつなのか、

買主が住宅ローンの申込みに必要な手続を適切に行っていたのか、

などによって結論が変わります。

 

特に住宅ローン特約には期限が設けられていることが多いため、

融資審査が予定どおり進んでいない場合には、

早い段階で契約内容を確認する必要があります。

「仮審査は通っているから大丈夫。」

「担当者から本審査も問題ないと言われている。」

という説明だけで判断するのではなく、

売買契約書に定められた住宅ローン特約の内容と、

実際の融資審査の状況を確認することが大切です。

 

住宅ローン特約による解除が可能かどうかは、

契約書の文言や融資申込みの経過によって判断が異なりますので、

売主から手付金の返還を拒否された場合などには、

より詳細なご相談をおすすめいたします。

 

※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、

実在の人物、団体とは一切関係ありません。

 

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