「もう引渡しも終わっているから、クーリングオフはできません」は本当? 投資用不動産の契約を解除できた事例を弁護士が解説
2026.07.27
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
不動産投資の営業では、
「節税になります。」
「家賃収入でローンを返済できます。」
「銀行融資もすべて手配します。」
などと勧誘され、その場の勢いで契約を締結してしまうことがあります。

もっとも、後になって契約内容を確認すると、
「思っていた条件と違う。」
「そもそも契約書を十分に読んでいない。」
「クーリングオフできるとは聞いていない。」
というご相談を受けることも少なくありません。
今回は、架空の相談事例をもとに、
不動産のクーリングオフが問題となった裁判例をご紹介します。

【相談内容】
建物の所有者Aさんからのご相談です。
Aさんは、不動産会社から賃貸用アパート経営を勧められ、
銀行の応接室で土地の売買契約とアパート建築の請負契約を締結しました。
契約当日、不動産会社からは、
「融資は問題なく通る。」
「家賃収入でローンを返済できる。」
「土地も建物もすべて手配するので安心してください。」
と説明を受けました。

数日後、銀行融資が実行され、土地の所有権移転登記も完了しました。
しかし、その後、契約内容を確認しようとしたところ、
Aさんの手元には売買契約書や重要事項説明書がありませんでした。
不安になったAさんが弁護士に相談したところ、
弁護士が不動産会社などから契約書を取り寄せることになりました。

すると、Aさんは、
自分が認識していなかった高額な代金や契約内容を初めて知ることになります。
Aさんは、「土地の引渡しも終わっているし、登記も済んでいる。
今さら契約を解除することはできないのではないか。」
と考えています。
本当に、もう契約を取り消すことはできないのでしょうか。

【弁護士からの回答】
結論からいうと、土地の引渡しや所有権移転登記が終わっていたとしても、
一定の場合にはクーリングオフによる契約解除が認められる可能性があります。
不動産売買については基本的にクーリングオフ制度の対象外ですが、
宅地建物取引業法第37条の2第1項で、
宅建業者の事務所など以外の場所で契約を締結した場合、
買主は一定期間内であれば、
クーリングオフによって契約を解除できるとされています。
もっとも、クーリングオフは、
代金の支払いや物件の引渡しが完了すると利用できなくなるため、
不動産会社から、
「もう引渡しが終わっているので解除はできません。」
と説明されることもあります。
しかし、実際には、引渡しが終わっていても、
売買代金の全額が支払われていなければ、
クーリングオフが認められる可能性があります。

実際に、東京地方裁判所令和2年11月20日判決では、
買主が銀行の店舗内で土地売買契約と建物請負契約を締結し、
その後、土地の所有権移転登記まで受けていた事案が問題となりました。
この事案では、買主は土地代金として約1億6500万円を支払っていましたが、
後になって契約書を確認したところ、
契約書上の売買代金は約1億9200万円とされており、
代金の一部が未払いのままでした。

売主である不動産会社は、
「契約後に大幅な値引きが行われ、買主は代金を全額支払っている。」
と主張しました。
しかし、裁判所は、契約締結からわずか3日で、
約2600万円もの値引きが行われたとは考え難く、
そのような合意を裏付ける書面も存在しないことなどから、
不動産会社の主張を認めませんでした。
さらに、裁判所は、
・契約が宅建業者の事務所ではなく銀行で締結されたこと
・買主が宅建業者の事務所を訪れて契約を申し込んだものではないこと
・クーリングオフの方法について説明された証拠がないこと
などを重視し、買主によるクーリングオフを認めました。
建物の請負契約も解除できることがある
今回の裁判例では、土地売買契約だけでなく、
同時に締結された建物の請負契約も問題となりました。
裁判所は、建物請負契約は、買主が土地を取得することを前提としているため、
土地売買契約がクーリングオフによって解除された以上、
建物を建築は履行不能になると判断しました。
その結果、買主は、建物請負契約についても解除することができ、
支払済みの代金の返還請求が認められました。

【今回のポイント】
・土地の引渡しや所有権移転登記が終わっていても、
売買代金の全額が支払われていない場合には、
クーリングオフが認められる可能性があります。
・契約場所が不動産会社の事務所ではなく、銀行や喫茶店などであった場合には、
クーリングオフの対象になることがあります。
・土地売買契約と建物請負契約をセットで契約している場合、
土地売買契約の解除によって建物請負契約も解除できることがあります。
・契約書や重要事項説明書を受け取っていない場合には、
早めに内容を確認することが重要です。
投資用不動産の契約では、契約書の内容を十分に理解しないまま、
多額の融資を受けて契約を締結してしまうケースがあります。
また、不動産会社から、
「もう登記が終わっているので解除はできません。」
「今さらクーリングオフは無理です。」
と言われ、諦めてしまう方も少なくありません。
しかし、実際には、契約の経緯や代金の支払状況によっては、
クーリングオフが認められる可能性があります。
不動産投資やアパート経営の契約に不安を感じている方は、
契約書や重要事項説明書を持参のうえ、
できるだけ早く弁護士へ相談することをおすすめします。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。
【参考記事】











