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陽なた法律事務所の弁護士が綴る、日常や法に関する豆知識ブログです。

定期建物賃貸借契約の中途解約

2024.11.20

執筆者 陽なた法律事務所 弁護士  松井竜介

 

こんにちは。弁護士の松井です。

今回は架空の相談事例をもとに、解決方法や裁判例を紹介したいと思います。

 

 

【相談内容】

 

建物の所有者(オーナー)Kさんからのご相談。

福岡市中央区にアパート1棟を所有しています。

10年前に、そのアパートの1部屋について、

Mさんとの間で、定期建物賃貸借契約を締結しました。

当時は全く使っていないアパートだったので、

しばらくの間は問題ないと思い、20年の期間で貸すことにしました。

ただし、もしも事情が変わって途中で解約したくなった場合に困るので、

仲介業者さんにお願いして、私が解約したくなった場合には、

途中で解約ができるという特約を入れてもらっています。

 

今回そのアパートが古くなってきたこともあり、

取り壊して、マンションを建てる計画を進めており、

Mさんには早急に立ち退いてもらいたいと思っています。

 

ただ、事前にMさんと交渉したところでは、

Mさんは全く立ち退く気はないようです。

 

契約書どおり途中解約して、Mさんに立ち退いてもらえますでしょうか?

 

 

【弁護士からの回答】

 

1 はじめに

 

最初に結論から言えば、Mさんに立ち退きを求めるのは困難だと思います。

以下順を追って説明します。

 

2 定期建物賃貸借契約

 

まず、今回の契約である定期建物賃貸借契約の性質についてお話すると、

定期建物賃貸借契約は、期間満了後の契約更新がなく、

契約の更新拒絶という概念がないため、貸主(家主)側からすれば、

更新拒絶時に問題となる正当事由を具備する必要がありません。

よって、高額な立退料を支払わないと建物が却ってこないということはなく、

貸主側から見て、契約終了という点から見ればメリットのある契約です。

 

ただ、その分借主からすれば、契約満了で必ず立ち退く必要があり、

普通借家に比べると不利益であるため、その条件は厳格に定められています。

 

【参考記事】 定期借家契約にすれば立退料がいらない?

 

3 中途解約権

 

それでは、ご相談の中にあった中途解約の特約条項により、

Mさんに立ち退きを要求できるかですが、結論としては難しいと考えられます。

というのも、先ほど上記で述べた定期建物賃貸借契約は、

条件さえクリアしていれば、期間満了により必ず立ち退きとなります。

この点で貸主にはメリットがあります。

そうすると期間途中に貸主から自由な解約を認めることは、

さらに貸主に有利となります。

これは逆に、合意で決めた契約期間は最低限借りられるという

借主側の期待をも裏切りますので、

借主にとってはかなりの不利益ということです。

 

ここで、借地借家法上は以下のとおり、

借主に不利な特約は無効となる条項が存在しています。

 

第九条 この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。

第十六条 第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借 地権者に不利なものは、無効とする。

 

第二十一条 第十七条から第十九条までの規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。

第三十条 この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

第三十七条 第三十一条、第三十四条及び第三十五条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。

第三十八条 8 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

 

そして、定期建物賃貸借契約における貸主による中途解約特約は、

借主に一方的に不利なので、借地借家法の規定により無効になりそうです。

 

ここで、東京地方裁判所平成25年8月20日判決では、

定期建物賃貸借契約が締結され、契約上貸主の中途解約権が特約にある事案で、

この特約は借地借家法第30条により無効と判断されています。

 

この判例に従えば、今回の中途解約権もやはり無効であり、

Mさんは立ち退かなくて良いという結論になります。

 

 

【今回のポイント】

 

今回中途解約権により立ち退きは難しいという結論になりましたが、

建物が古くなっているということですから、

建物老朽化を理由として任意の明け渡し交渉を行うことは可能です。

マンションを建てるということですから、

当然経済的なメリットがあるものと思われますので、

相応の立退料を支払って、退去してもらうという方向で検討すべき事案です。

 

また、中途解約権は無効になるものと思われますが、

仲介業者はその特約を含む契約書を作成しており、

その仲介業者への責任追及という選択肢もあり得ます。

先ほどの東京地方裁判所平成25年8月20日判決でも

仲介業者の責任が認められています。

 

これらの任意の明け渡し交渉や専門家への責任追及は、

立退料の積み上げや損害賠償額の算定など難しい場面もありますので、

ぜひお近くの専門家へご相談ください。

 

※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、

実在の人物、団体とは一切関係ありません。

 

【参考記事】

不動産業者の責任について

定期借家契約にすれば立退料がいらない?

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