心理的瑕疵とガイドライン
2023.09.12
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
1 はじめに
今回は不動産の心理的瑕疵に関するガイドラインの話です。
令和3年10月に国土交通省から
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
が公表されています。
2 ガイドラインの意義
住居で人が死亡した場合、
その事実をどこまで次の入居者や購入者に知らせるべきかについては、
死亡の原因によっても異なり、これまで明確な基準がありませんでした。
【参考 購入予定の物件で死亡事故、自殺か自然死で違いがあるの?】
そして、宅地建物取引業者(宅建業者)に求められる説明義務や
調査義務の範囲についても際限なく広がる可能性があることなどから、
不動産の円滑な流通や安心できる取引が阻害されるのを防止するために、
今回ガイドラインが作成されています。
3 ガイドラインの概要
Ⅰ 対象不動産
→ 住居用不動産
Ⅱ 対象者
→ 宅建業者
Ⅲ 調査範囲
→ 宅建業者として通常の情報収集として、
売主・買主に告知書当に過去に生じた事案について記載を求めれば足り、
人の死に関する事案が生じたことを疑わせる特段の事情がないのであれば、
人の死に関する事案が発生したか否かを自発的に調査すべき義務までは、
宅建業法上は認められない。
Ⅳ 告知範囲
→ 原則
宅建業者は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、
買主・借主に対してこれを告げなければならない。
要するに、後述する例外➀②③以外の場合は告げなければならない。
→ 例外(告知しなくても良い場合)
➀対象不動産において、
自然死(老衰、持病による病死など)又は、
日常生活の中での不慮の死(自宅の階段からの転落や、
入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など)が発生した場合
②対象不動産において、
①以外の死が発生又は
特殊清掃(原状回復のために消臭・消毒や清掃を行うサービス)や
大規模リフォーム等(特殊清掃等)が行われることとなった①の死が発覚して、
その後概ね3年が経過した場合
③対象不動産の隣接住戸又は
借主若しくは買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分において
①以外の死が発生した場合又は①の死が発生して特殊清掃等が行われた場合
4 まとめ
上記で述べたとおり、
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によれば、
自然死や不慮の死ではない、事件死や自死が発生した場合や
自然死等であっても特殊清掃が行われた場合には、
死の発覚後3年は告知義務があることになります。
この3年については、
3年経過すれば必ず告知義務がなくなるとは言い切れませんが、
ひとつの目安になるものと思われます。
また、少なくとも3年間は告知義務があるため、
例えば、賃貸人は事故を起こした賃借人もしくは遺族に対して、
その3年間分の家賃減額相当額を
損害賠償金として請求する根拠にもなり得そうです。