公簿売買と実測売買
2023.08.31
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
1 はじめに
不動産売買契約をする際に契約書をきちんと確認すべきなのは当然ですが、
専門用語も多いし、完全に理解するのはなかなか難しいですよね。
【関連記事】契約する前にきちんと契約書を確認していますか?
今回は土地の売買の際に気を付けておくべきこととして、
公簿売買と実測売買の違いをお話したいと思います。
契約書の表題には<土地公簿売買><土地実測売買>
などと記載されていることがあります。
2 公簿売買
公簿売買とは、売買の対象を不動産登記簿上の面積にして、
実際には面積が違ったとしても、
代金額の減額や精算をしないという契約になります。
次の実測売買と違い、土地の測量をしないので、
その分費用がかからず、すぐに契約できるという利点があります。
ただし、実際の面積が大きく違えば、どうしても当事者の不満が出てしまうので、
後日の紛争のリスクがあります。
3 実測売買
公簿売買と違い、実際の面積を基準に売買契約がされるものです。
契約前に測量を行ってしまう場合もあれば、
契約時点で測量未了の場合は、単価(1㎡あたり◯万円など)を定めておいて、
測量時点で、契約時に一応定めておいた代金額を増減もしくは精算するなど
いくつかパターンがあります。
実測売買の場合には、測量して面積を明確にした上で売買代金が決まるので、
後日の紛争リスクは低いですが、測量の費用と時間がかかります。
4 面積不足の場合の問題
上記のとおり公簿売買と実測売買で、それぞれメリット・デメリットがあります。
特に公簿売買の場合には、実測売買の場合と異なり、
登記簿の面積よりも実際の面積の方が、
多い(広い)もしくは少ない(狭い)ということがあり得ます。
この場合に後日代金減額や精算を避けるために、
「売主および買主は、実際の面積との間に差異が生じても異議を述べず、
売買代金増減の請求をしない」
というような文言が契約書に入っている場合があります。
売主と買主がともに一般の個人(消費者)であれば、
この契約書上の文言も有効といえますが、
売主が宅地建物取引(宅建)業者の場合には注意が必要です。
というのも宅建業法第40条や消費者契約法第8条で、
個人の買主(消費者)に不利な特約は無効となることがあるからです。
5 責任免除条項の有効・無効
売主が宅建業者で、買主が個人の消費者である場合、
専門家である宅建業者に比べて、個人の消費者は専門知識に乏しいので、
その個人を保護する必要性が出てきます。
そのため宅建業法や消費者契約法があります。
たとえば、建物に不具合がある場合、買主は売主に対して、
契約不適合責任(※)を追及していくことになりますが、
※民法第562条第1項 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契 約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。
売主が責任を追及されたくないと考えて、買主もその考えに同意すれば、
個人間では売主が契約不適合責任を負わないという特約も有効です。
これを契約不適合責任免除特約などと呼ぶこともあります。
しかし、買主が宅建業者の場合にはこのような責任を免除する特約は、
売主を保護するために、宅建業法第40条で無効となってしまいます。
それでは公簿売買の場合に、かなり面積が少なく(狭く)ても、
宅建業者の責任を免除するとの特約は有効といえるでしょうか?
この点、宅建業法第40条で無効となる部分は「目的物が種類又は品質に関して
契約の内容に適合しない場合におけるその不適合」責任の免除部分に限っており、
「数量」が含まれていません。
また、消費者契約法第8条第2項でも「引き渡された目的物が種類又は品質に関し
て契約の内容に適合しないとき」の責任免除部分に限っています。
よって、土地の面積という「数量」に関する責任を免除する特約は無効とならず、
売主が宅建業者でも有効となりそうです。
ただし、消費者契約法第8条第1項により、
売主の宅建業者が面積が少ないことを知っていたか、
もしくは知らないことに重大な過失があれば、
責任を負う可能性がありますので、
一見して明らかに土地の面積が少ない(狭い)ことがわかる状況であれば、
宅建業者の責任も出てくるかもしれません。
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