家賃を滞納した入居者の鍵を勝手に交換してもいい? オーナーが陥りがちな「自力救済」の落とし穴を弁護士が解説
2026.07.17
こんにちは。弁護士の松井です。
賃貸経営をしているオーナーの方から、
「家賃を何か月も滞納している入居者がいる。」
「連絡もつかず、退去する気配もない。」
「鍵を交換したり、荷物を片付けたりしても問題ないのではないか。」
というご相談を受けることがあります。

長期間の家賃滞納が続けば、オーナーとしては大きな負担になります。
住宅ローンや固定資産税の支払いがある中で、
賃料が入ってこない状況に強い不満や不安を抱くのも当然でしょう。
しかし、だからといって、オーナーが自らの判断で、
借主を部屋に入れないようにしたり、
家財道具を処分したりすることは許されるのでしょうか。
今回は架空の相談事例をもとに、解決方法や裁判例を紹介したいと思います。

【相談内容】
アパートを所有するオーナーAさんからのご相談です。
入居者Bさんは、数か月分の家賃を滞納していました。
電話や手紙で何度も支払いを求めましたが、
Bさんからは明確な返答がありません。
ある日、Aさんは管理会社から、
「このままでは埒が明かないので、
Bさんが外出している間に鍵を交換してしまいましょう。」
と提案されました。
さらに、
「荷物も長期間放置されているので、処分してしまった方がいいのではないか。」
とも言われています。

Aさんとしては、これ以上家賃を滞納されるわけにもいかず、
早く部屋を明け渡してもらいたいと考えています。
このような対応は認められるのでしょうか。

【弁護士からの回答】
結論からいうと、たとえ家賃を滞納していたとしても、
オーナーが自らの判断で借主を部屋に入れないようにしたり、
室内の家財道具を撤去・処分したりすることは、原則として認められていません。
確かに、数か月分の家賃滞納が続けば、
「もう出て行ってもらいたい」と考えるのは自然なことです。
しかし、日本の法律では、裁判所の手続によらず、
実力で権利を実現する「自力救済」は、原則として禁止されています。
そのため、
・勝手に鍵を交換する
・玄関を施錠して入室できないようにする
・室内の荷物を処分する
・電気や水道を止める
といった行為は、後に損害賠償責任を負うおそれがあります。

実際に、東京地方裁判所平成30年3月22日判決では、
家賃を3か月滞納していた借主に対し、
貸主が借主の外出中に玄関の鍵穴をカバーで塞いで入室できないようにし、
その後、室内の家財道具を撤去・処分した事案が問題となりました。
借主は、突然部屋に入れなくなったため、
サウナやインターネットカフェなどを転々としながら、
生活することを余儀なくされました。
その後、貸主は借主との間で退去に関する合意書を取り交わしましたが、
裁判所は、貸主による鍵穴の封鎖や家財道具の撤去・処分について、
不法行為に当たると判断しました。
結局、違法な自力救済と判断されたことになります。
さらに、裁判所は、違法な方法によって、
借主を退去に追い込んだ後に作成された合意書によって、
家財道具の撤去の違法性がなくなるわけではないと判断しています。
その結果、貸主は、慰謝料や財産的損害、弁護士費用として、
合計176万円の支払いを命じられました。
また、裁判所は、借主を部屋に入れないようにしていた期間については、
貸主は建物を使用させる義務を果たしていないとして、
その期間の賃料請求も認めませんでした。
なぜ「自力救済」は認められないのか
オーナーの方の中には、
「家賃を払っていないのだから、部屋を使う権利はないのではないか。」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、日本では、権利を実現するためには、
原則として裁判所の手続を利用しなければなりません。
たとえ家賃滞納があったとしても、
「鍵を交換する」
「荷物を処分する」
「電気や水道を止める」
といった方法によって、
貸主が一方的に借主を追い出すことは許されていないのです。
もし借主が家賃を滞納しているのであれば、
① 内容証明郵便などで支払いを催告する
② 賃貸借契約を解除する
③ 建物明渡訴訟を提起する
④ 強制執行によって明渡しを実現する
という手順を踏む必要があります。

たとえ面倒でも、日本が法治国家である以上、自力救済ではなく、
法的手段を選択しなければならないということです。
もし自力救済をしてしまうと住居侵入や窃盗など、
犯罪行為になってしまう可能性もありますので、重々注意が必要です。

【今回のポイント】
・家賃滞納があっても、貸主が勝手に鍵を交換したり、
家財道具を処分したりすることは原則として認められません。
・違法な自力救済を行うと、オーナー側が損害賠償責任を負う可能性があります。
・後から退去合意書を作成しても、それだけで違法性がなくなるとは限りません。
・家賃滞納への対応は、裁判所の手続に従って進めることが重要です。
家賃滞納が続くと、オーナーとしては、
一日でも早く問題を解決したいと思うものです。
しかし、感情的になって鍵を交換したり、荷物を処分したりすると、
オーナー自身が損害賠償などの民事上の責任や刑事責任を負うおそれがあります。
家賃滞納や明渡しの問題は、法的手続に従って慎重に進める必要があります。
「このまま滞納が続いたらどうすればよいのか」
「どのタイミングで契約を解除できるのか」など、
お困りのことがあれば、ぜひ早めに弁護士へご相談ください。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。











