借主が家賃値上げを拒否…大家はどう対応すべき?
2026.02.18
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
今回は架空の相談事例をもとに、解決方法や裁判例を紹介したいと思います。

【相談内容】
建物の所有者(オーナー)Aさんからのご相談。
Aさんは築25年の賃貸マンション(全20戸)を所有しています。
ここ数年で次のような支出が増えていました。
・外壁・防水工事 約1,500万円
・固定資産税 年間92万円 → 110万円に増加
また、周辺の賃料相場を確認したところ、
同程度の物件では月8万円台前半が中心でした。
しかし、問題となっている部屋の賃料は、月7万5000円(入居7年)
Aさんは、「8万5000円程度まで値上げしたい」と考え、
値上げをしたいと借主に通知しました。
ところが借主からは、「値上げには応じない」
と言われてしまいました。
Aさんとしては、
・値上げは法律上可能なのか
・拒否された場合どうすればよいのか
・裁判になったらどうなるのか
という点を不安に感じ、相談に来られたようです。

【弁護士からの回答】
値上げ請求自体は法律上可能
建物賃料については、借地借家法第32条第1項に次のような規定があります。
(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
つまり、賃料が
・税金の増減
・経済事情の変動
・近隣賃料との比較
などの理由によって、不相当になった場合、将来に向かって増減請求が可能です。
今回のケースでは、
・固定資産税増加
・大規模修繕実施
・ 相場との差
があるので、増額請求を行うこと自体は不自然ではないと考えられます。

ただし「通知=値上げ確定」ではない
重要なのはここです。
賃料はあくまで契約条件であり、最終的には
・当事者間の合意 または
・調停、裁判
で決まることになりますので、
値上げの通知だけで当然家賃が上がるというわけではありません。
裁判になった場合の現実
実務上、裁判では次の点などが総合判断されます。
・周辺相場
・修繕内容
・税金負担
・賃料据え置き期間など従前の経緯
例えば今回のケースでは、
貸主主張:8万5000円 / 借主主張:7万5000円
この場合、8万円程度という判断になることもあり得ます。
賃料の算定方法については以下の参考記事をご参照ください。
【参考記事】家賃の増額もしくは減額ってできるの?

参考になる裁判の考え方(一般的傾向)
裁判では、次のような考え方が取られやすいです。
① 相場との差
② 建物を維持するための修繕が必要かどうか
③ 固定資産税などの税額
一方で、「収益を増やしたい」だけでは、増額理由としては弱いと思います。
大家さんが取るべき現実的対応
① 相場資料を集める。
これは近隣の不動産業者に確認しても良いでしょう。
② 修繕資料を残す。
いつどのような修繕をしたのか、
業者との契約書や報告書などは必ず残しておくようにしましょう。
③ 税金資料を保管する。
税額は納税通知書や固定資産評価証明書でわかりますが、
念のため納税した際の領収書も残しておきましょう。
そして、最初から満額を狙わず、
ある程度の落としどころを踏まえて、
交渉余地を残すことが重要です。

【今回のポイント】
・値上げ請求自体は法律上可能。
・ ただし一方的に決定はできない。
・ 最終的には「証拠資料」で決まる。
・ 裁判では中間ラインになることもある。
・ 感情ではなく資料で判断される。
このように個別事情によって、
・値上げが認められる可能性
・適正賃料の水準
・交渉方法
が大きく変わってきますので、
早めのご相談が、結果的にリスクを減らすことにつながります。
家賃のことでお悩みの方は、より詳細なご相談をおすすめいたします。
※なお、上記事例はあくまで架空のものであり、
実在の人物、団体とは一切関係ありません。











