敷金と敷引特約
2023.09.01
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
今回は不動産トラブルでよく耳にする
賃貸借契約における敷金についてお話したいと思います。
1 敷金とは?
まず敷金とは何でしょうか?
民法第622条の2第1項によれば、
敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)
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2 敷引特約
賃貸借契約で敷金が差し入れられている場合、
契約書上敷引特約というものが定められている場合があります。
この敷引特約とは、
たとえば契約書で敷金4か月、敷引3か月と定められていると、
賃借人は契約時に敷金として家賃4か月分を賃貸人に預けて、
退去時の原状回復費用として3か月分を引くという合意になります。
この敷引特約で問題となるのは、
本来、賃貸人の負担であるはずの通常損耗や経年劣化部分まで
(民法第621条)
敷引部分に含まれてしまうことで、賃借人の負担になってしまうことです。
3 敷引特約に関する裁判例
上記の敷引特約があることによって、
通常損耗や経年劣化部分まで賃借人負担になってしまうということは、
原則的に通常損耗や経年劣化は賃貸人負担であるところを、
賃借人に負担させるという不利な内容とも言えるため、
敷引特約自体が、消費者契約法第10条によって、
無効となるのではないかという問題が生じます。
この問題に対して、平成23年3月24日最高裁判決は、
「当該建物に生じる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなどの特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効」
と判断しています。
上記の最高裁判決を前提とすれば、
敷引特約というだけで、すぐ無効というわけではなく、
敷引特約は一応有効なんだけれども、いろいろな事情を考慮して、
敷引金が高額すぎる場合には敷引特約は無効となるようです。
具体的にいくらが高額すぎるのかは、なかなか判断が難しいところですが、
先ほどの最高裁判例の事案では、
家賃(9万6000円)の3.5倍強の敷引金(34万円)を許容
しているので、ひとつの目安になるものと思われます。
原状回復や敷引は退去時に問題になるものなので、
契約時点ではきちんと契約書を確認していないという場合もあろうかと思います。
しかし、それではリスクの先延ばしにしかなりませんので、
ぜひ契約時にも必ず契約書を確認するようにしましょう。
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