不動産業者の責任について
2020.12.28
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
こんにちは。弁護士の松井です。
今回は不動産業者(宅地建物取引業者)が、
売買契約や賃貸借契約の仲介業者として関与する際の
重要事項説明(重説)義務についてお話ししたいと思います。
1 重要事項説明義務
宅地建物取引業法(宅建業法)第35条によれば、
『宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。』
とされており、説明すべき事項として一号~十四号まで列挙されています。
これには不動産の登記事項や法令の制限などが該当します。
2 宅建業法第35条第1項各号以外の事項
各号以外の事項についても不動産取引の専門家として、
説明義務が認められる場合があります。
よく問題となるのはシロアリと過去に自死など死亡事故があった場合です。
不動産業者には、宅地建物が契約目的(居住など)に適合した性状、性質、
機能等を備えているか否かについて業務上の注意義務があり、
業務上一般的に要求される通常の注意をすれば、
当該性状などがわかる場合には買主や借主に説明する義務があります。
(大阪地裁平成20年5月20日判決など)
先ほど述べたとおり、不動産業者には、
宅建業法第35条1項の各号の事項について説明する義務が認められます。
これは不動産業者として通常の調査をすれば発覚する事項だからです。
他方で、不動産業者は建築の専門家や警察ではないので、
シロアリの有無や死亡事故についてすぐにはわからないこともあり、
わかるまで調査して説明すべきとするのは酷です。
よって、業者として業務上一般に要求される注意をしたかということが、
問題となります。
大阪地方裁判所平成20年5月20日判決では、
シロアリらしき虫の死骸が発見されていたことなどから、
不動産業者に対して、
買主に更に調査を尽くすよう促す注意義務が認められています。
死亡事故の場合には、
少なくともインターネットやマンション管理組合に問い合わせるなどして
容易に調べられる事項については、
説明義務や注意義務が認められる可能性が高いのではないでしょうか。
3 重説後の事情の変化
重説は本来『売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に』されるもので、
契約前の買主や借主が契約するかどうか検討する際の情報源となるものです。
よって、不動産業者としては重説するか迷った場合に、
買主や借主がその情報を知れば契約を躊躇するような事項は、
重要事項説明書に記載の上で、
説明をしておいた方が後日の紛争をさけるためにも良いと思われます。
そして、重説と契約締結日とでかなりの時間が空くことがあり、
重説後事情が変わって、説明すべき事項が生じることもあり得ます。
実際に重説時と契約締結日で2か月程度間が空いていたという事例で、
その2か月の間に対象の土地が、
土砂災害警戒区域に指定されていたというものがありました。
この場合には不動産業者は改めて説明すべきであり、
説明がなければ重説違反になります。
4 重説違反によってどうなるか
売買契約などはあくまで売主と買主との関係であり、
重説違反は不動産業者との関係なので別の話です。
重説で説明を受けていない部分が、
契約不適合責任に該当する場合には契約解除もあり得ますが、
売主の契約不適合責任を免責する特約がある場合には、
基本的には重説違反は不動産業者との関係なので契約解除はできず、
(売主が事情を知っていた場合は別として)
不動産業者に対して、損害賠償請求をしていくことになります。