「営業権譲渡」の落とし穴 ― 無権代理と詐欺が問題となった飲食店居抜きトラブル事例 ―
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
はじめに
今回は、飲食店経営者が新規出店を進める中で、
いわゆる「営業権譲渡」をめぐってトラブルに巻き込まれた事例をご紹介します。
一見よくある居抜き案件ですが、
その実態は「無権限者による契約」という重大な問題を含んでいました。
実務上の注意点も含めて解説します。

ご相談内容
飲食店を複数経営するAさんは、
F県の繁華街で新たな店舗を出店しようと計画していました。
知人の紹介で、Bさんと知り合い、
Bさんから「C社名義で運営している店舗の営業権を譲渡できる」
と説明を受けます。
Aさんはこれを信じ、
・店舗の営業権の譲渡
・居抜きによる什器備品の引継ぎ
を内容とする契約を締結し、1000万円以上の代金を支払いました。
しかしその後、
・店舗は引き渡されない
・実際の建物所有者は第三者に貸していた
という事実が判明し、営業は不可能に。
Bさんに返金を求めても応じてもらえず、相談に至りました。

解決までの道筋
1 契約内容の精査
今回契約の対象となっている『営業権』が具体的に何を指すのか、
賃借権ということなのか、明確ではなかったものの、
実際に営業はできていないという事情があった。
また、居抜きで什器備品も契約の対象に含まれていたため、
少なくとも一部は什器備品の売買契約ということになり、
引渡未了のため、いずれにしても債務不履行ということは明らかだった。
2 当事者
契約書では当事者はAさん(の会社)とC社の記載があったため、
まずはC社を請求相手と考えた。
3 交渉開始、文書送付
まずはC社に債務不履行に基づく契約の解除通知と、
代金の返還請求をしたところ、
C社から、Bさんが勝手にやったことなので、
C社は全く関係がない旨の通知書が届いた。
そのため、今回の件はBさんがC社の名を語り、
何ら権限がないのに、Aさんと契約していたことが判明した。
Aさんからすれば、Bさんから騙されていたということになる。

4 法的構成
請求する相手がBさんということが定まったので、
Bさんに請求する根拠を検討したところ、
C社に同意や追認を得ることなく、営業権の譲渡に関して、
権限があるかのように装って、Aさんと契約しているので、
この点で詐欺行為と考えられた。
かりに詐欺と言えないとしても、Bさんは権限なくC社として契約しているので、
無権代理人としての以下の『民法117条第1項』の責任を負うことになる。
(無権代理人の責任)
民法 第百十七条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
このように検討し、詐欺行為(不法行為)もしくは無権代理人の責任追及として、
Bさんに損害賠償請求をしていくことに決定した。
そして、Bさんに請求したものの、Bさんは全く支払う意思がなかったため、
やむを得ず裁判をすることになった。

5 裁判
Bさんから答弁書は提出されたものの具体的な反論はなく、
Aさんの言い分どおりの判決となった。
不法行為として、10%の弁護士費用も加算した金額を請求していたが、
こちらについても認められている。

解決のポイント
1 初動
交渉の最初にC社へ文書を送付し、
C社から明確にBさんとは関係がない旨の通知があったことから、
その後の方針が立てやすかった。
2 複数の法的構成
詐欺行為だけでなく無権代理人の責任追及という、
ふたつの法的構成をとることができたので、
裁判をしても勝訴する可能性が高いと判断することができた。
3 回収について
また、かりにBさんが金額の大きさから破産申立をしたとしても、
今回詐欺行為が認められているので、破産をしても借金が免責されない
非免責債権(破産法第253条第1項)のうち、
『破産者が悪意で加えた不法行為に基づく』損害賠償請求権に、
該当する可能性が高く、この点でも訴訟で勝訴した意義があった。
(免責許可の決定の効力等)
破産法 第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
実務上の注意点
このようなトラブルを防ぐためには、契約前に以下の確認が不可欠です。
・本当に契約権限を有する者か
・店舗の賃貸借契約の内容
・建物所有者の同意の有無
・「営業権」の具体的内容
特に「営業権」という言葉は曖昧であり、慎重な検討が必要です。
居抜き案件はスピード感が求められる一方で、
権利関係の確認を怠ると大きな損害につながります。
本件は、無権代理と詐欺の典型例であり、
実務上も非常に示唆に富む事例といえるでしょう。
同様のトラブルに巻き込まれた場合には、
早期に専門家へ相談することをおすすめします。

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