土地に設置した温泉ポンプを長年継続して使用していたところ、時効取得などを理由とした仮処分を経て、別の土地取得により解決した事例
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
ご相談内容
【事業主Xさんからのご相談】
私はある事業を行っており、そのために甲土地上に温泉ポンプを設置して、
そこから温泉を引いて事業を行っています。
この甲土地は私の父AがYさんから買ったものですが、
いまだに所有権の名義はYさんのままになっています。
今は私がAから甲土地を譲り受けたので、私の名義にしたいのですが、
Yさんは甲土地をAには売っていないと主張して名義変更を拒否しています。
今後安心して、事業を継続するためにも甲土地を確保したいです。
良い方法を教えてください。
解決までの道筋
①まずXさんの甲土地に対する所有権が認められるか検討した。
AさんとYさんとの甲土地の売買契約が成立しているか検討したところ、
特に契約書はなかった。
領収書はあったものの、そこに「土地代」と記載されているだけで、
「甲土地」の「売買」代金とは記載されているわけではなかった。
ただ、AさんとYさんの間で、他に関係しそうな土地がないことや、
領収書記載の金額も数百万円と高額だったことから、
甲土地の売買代金だと推測できると考えられた。
また、AさんがYさんから甲土地を購入して使い始めてから、
すでに20年以上が経過していたことから、
かりにAさんとYさんの間の売買契約が認められなくても、
甲土地の時効取得は認められる可能性が高いと考えた。
②交渉開始
上記のとおり、Xさんの所有権が認められる可能性が十分あるとの結論に至り、
まずはXさんの代理人として、Yさんと所有権移転登記してもらうように、
交渉していくことになった。
Yさんにも早期に弁護士が就いたものの、なかなか交渉は進展しなかった。
③処分禁止の仮処分申立て
Yさんとの交渉が難航していたため、
もしYさんが甲土地を売却するなどして、
他の人(たとえばZさん)に名義移転してしまうと
そのZさんは時効完成後の第三者ということで、
登記を備えた方が優先するという最高裁昭和33年8月28日判決から、
Zさんが優先するという結論になるため、
Xさんが甲土地を確保できなくなってしまう。
よって、Yさんが甲土地を処分できないように、
処分禁止の仮処分という法的手続をとることになった。
この処分禁止の仮処分が認められるかどうかは裁判所で判断されるため、
Xさんの言い分が認められるのかという、
試金石としての意味合いもあった。
結論として、Xさん側の言い分として、
Aさんによる甲土地の購入と時効取得を裁判所に伝え、
仮処分という形ではあったものの、それが認められることになった。
④訴訟提起
仮処分が認められたことから、この事情をYさんに伝えて、
任意の交渉を行おうとしたものの、Yさんから良い返事はなく、
裁判を提起することになった。
裁判でも仮処分と同じ主張を行っていく予定ではあったものの、
穏便に解決したいというXさんの意向もあり、
本格的な裁判を開始する前に、裁判所を介して和解を検討することになった。
⑤和解
Xさんとしては、温泉が使えることが重要だったので、
甲土地でなくても良いという話になり、
Yさんの持っている他の乙土地で温泉が出れば、
その乙土地を取得するという和解案が出てきた。
ただし、実際に乙土地で温泉が出るか不明のため、
調査や試掘などに1年程度の時間がかかった。
最終的には乙土地から無事に温泉が出たため、
XさんがYさんから、甲土地ではなく、
乙土地の一部を買い取るという形で和解が成立した。
解決のポイント
仮処分を行ったことで、
Xさんの言い分が一度は認められたという事情となり、
その後裁判となっても、有利に和解の話を進められた。
Xさんが甲土地に執着するのではなく、
温泉を今後継続的に使い、事業を行うということが、
今回の重要な目的だったため、
乙土地の取得という代替案が可能となり、双方円満に解決できた。
お客様の声
不明な点がありましたら、
私のなかで考え、提案したことにも、すぐに否定するのではなく、
私の考えを汲み取ってくださいました。
かなり長い期間連絡をとるなかで、
先生にお世話になって良かったとおもっておりますし、
まだ別件でも、先生に力をお借りしてます。
今後ともよろしくお願いいたします。