大正時代に設定された抵当権について、債権者の相続人約50人に対して、裁判の末に無事抹消できた事件
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
ご相談内容
【土地所有者Kさんからのご相談】
私は、◯◯市内に土地を所有しており、
今回周囲の土地と合わせて売却することになったのですが、
登記簿を確認していて、抵当権が設定されていることに気づきました。
どうやら大正時代に設定されているようなのですが、
当時の事情などは全くわかりません。
抵当権を抹消ができないと売却もできないので、
なんとか抵当権を抹消したいです。
解決までの道筋
①相続人の特定
抵当権設定が100年ほど前になされているので、
債権者(抵当権者)の相続人がかなりの数いることが想定された。
そのため、まずはその相続人が誰なのか、何人いるのか確認する必要があった。
ただ、本件においては、Kさんの依頼で事前に司法書士さんが、
戸籍等を取得していたため、早期に相続人を特定できた。
②方法の選択
相続人を特定できたので、抵当権抹消のために適切な方法を検討したところ、
100年以上前の抵当権なので、債権が時効で消滅しているはずであり、
それとともに抵当権も消滅するという主張を行う方向となった。
穏便に解決するためには任意の交渉もあり得たが、
相続人の数が約50人とかなり多数なので、
ひとりひとり交渉することは現実的では無いという結論となり、
早期かつ一挙的解決のために、裁判を選択することになった。
ただし、いきなり裁判所から訴状が届くというのは、
相続人らの感情を一方的に害する可能性もあったため、
まずは受任通知として書面を送り、
その書面中に訴訟を提起する旨の予告を記載することにした。
また、書面を送付することで、郵便が届かない人が事前にわかれば、
裁判において、付郵便や公示送達の可能性を把握できるという意味もあり、
まずは普通郵便で受任通知を送付した。
この際に、配達されずに戻ってきたのは2通だけであった。
③裁判
・一部判決
被告の人数が多いため、裁判所へ納める郵便代が10万円以上かかった。
裁判提起後、ほとんどの相続人に訴状が送達され、特に争う方はいなかったため、
訴状送達された方たちに対しては、Kさんの勝訴判決の見通しとなったものの、
訴訟費用(印紙や郵便代)は負担したくないという意見があったので、
裁判所との協議の上で、通常勝訴判決であれば、
訴訟費用は被告負担となるところ、今回は原告(Kさん)負担との判決が出た。
・残りの判決
訴状が届かなかった相続人については、その居所を調査したところ、
すでに亡くなっている方や一時的に他へ転居していた方などがいたため、
その旨を裁判所に伝えて、最終的に無事訴状が届いている。
また、ひとりは住民票上も移動がなく、
現地調査をしても居所に住んでいる形跡もなかったため公示送達になった。
そして、最終的はすべての相続人に対して、
抵当権抹消の勝訴判決を得ることができた。
④登記
勝訴判決後、登記のために確定証明書を取得したが、
被告の人数が多いため、確定証明書の記載に若干苦労し、
印紙代も人数分必要だったので、実費はかさんだ。
後日無事に抵当権抹消ができた。
解決のポイント
・100年以上前に設定された抵当権だったので、
原告被告ともに当時の事情がわかる人がおらず、争いの余地の乏しい裁判だった。
そのため、被告側から和解金などの要求はなく、
裁判自体は特に問題なく進行した。
・やはり被告の人数が多かったので、
裁判中に亡くなっている方がいることが発覚するなど、
イレギュラーな対応が要求されたものの、
最初に受任通知書を送っていたからか、
被告側も協力的であり、最終的には無事判決が出ている。
お客様の声
難しい案件だったと思いますが、親身に寄り添っていただき、
大変助かりました。
無事解決できて、感謝しています。