30年前に設定された抵当権を裁判せずに抹消できた事例
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
ご相談内容
【不動産所有者Bさんからのご相談】
先代Aが亡くなり、甲不動産を相続しました。
そして、甲不動産を売却することになったのですが、
登記簿上、30年ほど前に抵当権が設定されていることがわかりました。
当時の事情は何もわからないのですが、何とか抵当権を抹消して欲しいです。
解決までの道筋
①まず、甲土地の登記簿(全部事項証明書)の確認をしたところ、
30年ほど前に抵当権が設定されていた。
②そこで、抵当権者として登記されているCさんに対して、
抵当権抹消登記手続請求を行うことになった。
③Cさんへの請求を検討するうちに、Cさんがすでに死亡していた。
そのため、相手方を特定するために戸籍等を取得したところ、
相続人が5人いることが判明し、その5人(相手方)に対して、
請求していくことになった。
④請求根拠としては、Bさんから聞いた事情だけでは、
抵当権設定当時の事情が何もわからないものの、
相当期間が経過していることから、被担保債権の時効消滅が考えられた。
⑤ただ、相手方から時効の更新(※)など、
時効が完成しない事情が主張されることがあり得るため、
念のため、完済などの客観的事実がないか資料を確認したものの、
特に有利な事情はなく、とりあえず相手方に時効消滅の主張をして、
その対応をみてから、検討することにした。
※たとえば、民法第152条第1項
(承認による時効の更新)第百五十二条 時効は、権利の承認があったときは、そ の時から新たにその進行を始める。
⑥可能な限り円満に解決するという方向性のもと、相手方に対して、
抵当権抹消のお願いという体裁で文書を作成し、別紙として、
抵当権を抹消することに、同意する・同意しない
という簡易のアンケートをつけて送付した。
同書には、念のため消滅時効を援用する旨も記載しておいた。
⑦相手方全員から、抵当権抹消に同意する旨の回答がかえってきたため、
抵当権抹消登記手続に必要な委任状などの書類を改めて送付した。
⑧必要書類が揃い、司法書士に依頼して、抵当権抹消登記が完了し、
事件が終了した。
解決のポイント
①抵当権設定が30年近く前のため、当時の事情が何もわからなかったが、
逆に、事情が何もわからないからこそ、時効消滅の主張が有効だった。
②最初に送付する文書をお願いする体裁で送ったため、
特に角が立たずに、その後の必要書類の準備など、
登記手続に円満に協力してもらうことができた。