定期建物賃貸借契約において、貸主からの中途解約による立退請求がされ、最初の提示額の3倍の立退料で解決した事例
執筆者 陽なた法律事務所 弁護士 松井竜介
ご相談内容
【マンションの借主であるAさんからのご相談】
去年、貸主B社と甲マンションの賃貸借契約をしました。
この賃貸借契約は15年間の定期建物賃貸借契約というもので、
期間満了でも更新がないとのことでしたが、
子供が大きくなるまでは住めたら良いという考えもあって、
この甲マンションに決めました。
しかし、今年になってB社から途中解約したいという申し出があり、
立退料80万円での立ち退きを請求されています。
法的に立ち退かないといけないのでしょうか?
かりに立ち退くとしても、適正な立退料は支払って欲しいです。
解決までの道筋
①途中解約権について
まず法的にAさんが立ち退かないといけないのか問題となる。
契約書上は、貸主であるB社に途中解約権があるが、
定期建物賃貸借契約はそもそも更新がないものであり、
さらに貸主に途中解約権まで認められるとすると、
借主は期間満了で契約更新もない上に、
いつでも解約されてしまうという不安定な状況におかれてしまう。
これは借主にかなり不利なものであり、
借地借家法第30条により無効と判断された裁判例がある。
(東京地方裁判所平成25年8月20日判決)
そうすると、B社の立ち退き請求は理由がなく、
Aさんは立ち退かなくて良いことになる。
②立退料について
法的にはAさんは立ち退かなくても良いとしても、
穏便に解決するために、適正な立退料を支払ってもらって、
立ち退くという選択肢もあり得る。
適正な金額については、
甲マンションと同程度のマンションに転居するとして場合の
引っ越し費用などの実費や、賃料差額について検討し、
任意に立ち退く場合の立退料として、
数百万円を請求することとなった。
③解決
B社の途中解約権は無効であると主張をしながら、
金額次第では立ち退くこともあり得るという方向で話を進め、
最終的には、最初に提示された立退料80万円の3倍の240万円で合意できた。
解決のポイント
①立ち退く理由がなかったこと
法的に立ち退く理由がないため、
あくまで金額次第で任意に立ち退くという有利な交渉ができた。
②賃料が比較的安かったこと
立ち退く理由がない以上、任意に立ち退くということは、
定期建物賃貸借契約の残りの期間の権利・利益を放棄することになるため、
その権利・利益を放棄するのに値する立退料を請求していくことになる。
今回、甲マンションの家賃は移転先の同程度のマンションと比べて安く、
立ち退くことで、Aさんはこの安く居住できる権利・利益を放棄することになる。
よって、この権利・利益を放棄する対価として、立退料については、
家賃差額×残りの賃貸借期間というわかりやすい金額を提示できた。
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